〜幕間〜 世界の歪みは緩やかに
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い店主、厨房を貸せ。代金は三倍払うから俺に料理させろ」
そんな男の言葉が高順の心を打った。
料理とは和。そんな考え方は初めてだ。
どんなモノを作り出すのかと野次馬に混じって厨房を覗きに立ち上がる。
手早く厨房で料理を行う男は手つきを見るに完全な料理人では無かったが、燃えたぎる情熱を宿した瞳に若い頃の自分を重ねてしまった。
手際は及第点。味付けには……なんと、そこでそんなモノを入れるのですか!?
料理人の高順とこの店の店主だけが異常さに気付いた。驚愕に目を見開く二人は中華鍋を振り回すその男を凝視する。
何一つ見逃すまいとして高順は全ての手順と食材を頭の中に叩き込んで行った。
出来上がったのはメンママシマシのメンマ丼と言っていた。
一口食べた白の美女は目を瞑り、それから一言。
「メンマ単体の方が私には好みかと」
しかし黙々と口に運び続ける。
「うん、それでいい。だがこれも中々イケるだろ?」
してやったり、というようににやりと笑う男は、美女の心の内を読みとったのだろうと予測できる。
「ふふ、武人が武を振るう場が違う、という事にしておきましょう」
お互いの落としどころを見つけての曖昧な決着ではあったが、どちらにも笑顔が宿っていた。
最後に美女は、
「大変おいしかった、秋斗殿。ごちそうさまでした」
料理を作ってくれた者への感謝を、綺麗な笑顔で口にする。
その光景を見た高順の頬には涙が一筋流れていた。
なんて美しいのか。私が求めたモノの一つがここにある。
ああ、そうか。私は大切な事を忘れていた。お客では無い誰かに料理を作るという事を。誰かに食べさせてあげたいという気持ちを。私の料理を食べて笑って欲しいという想いを。
気付けば黒衣の男の手を握っていた。
「この料理の作り方を教えて欲しい。もう一度作って貰えませんか?」
一度目にした料理は忘れない高順は、自分のためにも作って欲しくて嘘をついた。そして腹黒くなってしまった高順は無意識の内に店で出す事まで計算してしまっていたのだ。
自身の汚れきった心にまた絶望がのしかかり、こんな自分にはおいしいと言ってくれる人などいないかもしれないと落ち込む。
「構わないが……店主、どうせなら違う料理も作ってみたいんだがいいか? 代金は払うぞ」
きらきらと光る眼差しは子供のようで、高順は直視していられなくて目を伏せる。
「え、ええ。あっしは構いやせんが……そうっすね、メンマ丼の作り方で手を打つってので」
その店主は高順を知っていた。密かにライバル視もしていて、メンマ丼の作り方を強奪する事にしたと思われる。
悔しくて歯軋りをする高順に、男はポンと一つ肩を叩き、
「あんた料理人だろ。それもとびきり腕のいい奴だ。後でメンマ丼より遥かにお
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