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さんすくみっ
第一部
第一幕 畜生中学生になる
第一幕 畜生中学生になる
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。人間の感情というやつはあまりに多彩すぎて、俺はまだその一割も理解ができていなかった。少なくとも畜生時代はそんなことがわからなくても、ほどほどに充実した生活を送れていたからだ。
 そんな俺でも、こいつが今の『歌』を自分で馬鹿にしているのは伝わった。
「ケロロ。私は歌が上手じゃないないので」
「…………」
「昔はその、自分は世界で一番歌が上手とか、そんな馬鹿なことを本気で思っていたんですが、ここに来て、ああ私は井の中の蛙だったんだなんて…………ケロっ!? ち、違いますよ! 私は蛙でもカエルでもないですよ!」
 突然取り乱す女。必然的に声のボリュームも数段階上がる。
「ケロケロケロケロ!」
「落ち着け」
 そう言って俺は女の額を軽く小突いた。
「ケロ!?」
「別に俺はお前がカエルかどうかなんざ興味はない」
 俺と同じような境遇のやつが複数人いると聞いている。もしかするとこいつもその一人かもしれない……が、だからと言ってどうというわけでもない。それこそまるで興味がなかった。それよりも……。
「あとな。俺はそんなに多くの『歌』を聴いたことはないんだが、お前のそんなに悪くなかったと思うぞ」
「……ケロ?」
「他のやつがどれだけ上手くやれるのかは知らん。知らんが、少なくとも、今さっき俺の脳を揺さぶったのは、他の何でもない、てめェの『歌』だったんだ。そんなてめェの『歌』が馬鹿にされるのはイライラする。たとえ歌った本人であるてめェが言ったんでもな」
「ケ、ケロ」
 ……なに言ってんだろ俺。
 何か変なモヤモヤが胸の中で広がって、気がついたら自分でもわけのわからんことを口にしていた。
「ああ、もういいや。なんか考えるのも面倒い。つか、ちょっと時間もちょいやべえな、こりゃ」
「ケケロ!? 本当だ。遅刻しちゃう!」
「俺は先に行くぞ?」
「ケロ。どうぞです」
 俺はくるりと、女に背を向け、先ほどいた職員室という場所へと歩き出した。
 すると。
「あ、あの!」
 また女がボリュームをフルにした。う、うるせぇ。俺の鼓膜破れてないよな?
「ん? まだ俺になんかあるのか?」
「ケ、ケロ! ありがとうございます!」
「…………ありがとう?」
「ケロ! そしてよかったら、これからもっと練習して、今よりもっと上手になったら、また私の『歌』を聴いてもらってもいいですか!」
「あ、ああ」
「では、これからもよろしくお願いします!」
 女は言葉と同時に腰を直角近くまで曲げる。……たしか、お辞儀とかいうやつだったか?
 ……ありがとう……ねえ。
 これまた少なくとも俺達の世界には無い概念だ。
 感謝というものを伝える言葉であるようで、つまりは俺は何か感謝を伝えられるようなことをしたらしい。
 ……ただ。何だろう。この気持ちは。何と
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