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一章
始まり
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「…きて!……て!」
女の子の声…?
僅かに覚醒した頭が、そのおおきな叫び声を認知する。
ひどく狼狽した、しかし綺麗さを保ったままの優しい声。
穢れを知らない、無垢な声。
「…こ、は…?」
開いた目には、目が眩むほど晴れ渡った青空が飛び込む。
太陽の光、乾いた風。
そして、桃色のきめ細かな頭髪が揺らめいた。
「良かった…!大丈夫?」
「え…?」
身体を支えられて『私』は身体を起こす。
まだ覚醒していないのか、全身からだるさがにじみ出るが、なんとか自分で身体を立てることができる。
「身体は、大丈夫?」
にこやかに彼女が聞いてくる。
可愛らしい、柔和な、人懐っこい印象の好意ある笑顔。
私はなんの迷いもなく、うん、と答えた。
「そっかぁ…!良かった!」
「あの、えと…あな、たは…?」
「あっ…!ゴメンね?自己紹介してないね。わたしは、カノンノ。カノンノ?グラスバレー。あなたは?」
「えっ…」
私…?私、は…?
名前…?
記号。
存在の証明。
呼称。
私を示すもの?
私を表し、現し、顕す者。
私って、なに?
私の証明って、なに?
私を証明する術は、名前?
行動ではできない。
いや、名乗るのも自分を示す行動か。
しかし、名一つでも私を示せるわけではない。知っている。
知っている?
そう、知っている。
けれど、知っている。
何も示すことができなければ。
示そうとすることすらできなければ。
本当に潰えてしまうことを。
だから、思いつく一つの、名称を呟いた。
「私はーーー」
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