記憶の彼方
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なる部分までは完全には把握していない。
ましてや、その通りになるという百パーセントの保証があるわけもなく、概略的な部分を除いては深くは考えてこなかった。
今回はそれが仇となったのか。
もっともそれを知っていたとしても、ラインハルトがここで立ち往生するとまでは書いていないのだから、想像していたとしても意味がなかったかもしれないが。
「小隊長!」
息を吐いたアレスを、残っていた装甲車を調べていた兵士が呼んだ。
カッセルと顔を見合わせて、一緒に向かう。
近づけば装甲車の後部をライトで照らして、促した。
そこには空となった燃料電池を入れるボックスがある。
その現状に男が戸惑ったような声で、事実を述べた。
「一台は水素電池が奪われてます」
「水素電池だと。何でそんなものを帝国が奪う?」
「ガス欠が起きたのだろう、途中でね」
「それは、随分と抜けていますね。こんな場所で立ち往生をすればどうなるかはわかるでしょうに」
「ああ。死んで欲しかったのだろう」
「死んで欲しかった?」
「小隊長」
言葉を遮るように、再び声があがった。
会話を止められて、珍しく不快気にカッセルが声の方を睨む。
「何だ?」
「その――帝国兵です。帝国軍の士官の死体があります」
戸惑った言葉に、カッセルとアレスが顔を見合わせた。
そして表情に疑問を浮かべて、カッセルが声を出す。
「なんだそれは。奴らは味方の死体を回収しなかったのか」
「ええ。そのようで――」
「あえてしなかったのだろう」
「わざとですか?」
「ああ、仲間割れと考えれば、水素電池がなくなったことも説明がつく」
「何とまあ、しかし、それは随分と」
「話が飛躍しすぎか。ま、そうだろうな」
邪魔となったラインハルトを殺すために、水素電池に細工をする。
さらに念入りに死体を確認するために兵士を送り込むなど、アレスも知っていなければ考えもしなかっただろう。
もっとも今はその予想が正しいことなど、どうでもいいこと。
今はやるべき事がある。
「軍曹。すぐにクラフト大佐に連絡を。生存者はなし。敵は水素電池の他、装甲車のデータを奪取した可能性が高い。すぐに敵基地への攻撃を停止し、撤退するように伝えてくれ」
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