記憶の彼方
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た。
だが、装甲車ではなく人間であれば反応はない。
こんな外を呑気に歩く人間などいない。
じっとしていれば、それこそ一時間も経てば指の感覚もなくなる。
それを理解しているからこそ、反応がなければ敵がいないと思いこんでいる。
それがカプチェランカの常識。
だが、まだ二カ月のアレスはそれになじめないでいる。
むしろ、そう考えるのであれば積極的に前線基地を作り、一時間ほどでも徒歩の部隊で敵を待ち受ける対応を取った方がいいのではないか。ここの基地司令官はともかくとして、同盟軍の本部でそれを理解できる人間は多くいるはず。
「たかが辺境にそこまで意識を持たないか」
そうであれば何のために彼らは戦っていると言うのか。
長く続いた戦いが、問題が起きなければそのままにしておくと言う異常な状態を常態化させているようにアレスは感じた。
「小隊長。前方に何か存在します!」
驚いたような声でモイラが伝えた。
障害物があれば、基本的には運転手の隣でモニターに目を走らせていた監視手が発見を知らせる。その声がなかった事に驚いている。
驚くほどの事ではないと思いながら、アレスは車内に顔を突っ込んだ。
「前方に人影を発見。砲手は狙いを二時の方向にして、速度を落としてくれ」
+ + +
ほぼ七割を雪に埋もれた、それは死体であった。
アレスが隊員二人を伴って身に行けば、基地で見た顔の男だ。
怪我を負いながら歩いてきて、ここで力尽きた。
その表情は苦悶に満ちて、とても幸せな最後であったと言えなかっただろう。
すでに歩いてきた道は白銀の雪で覆われている。
それでも倒れている方向と、微かに凍った血の氷から場所はわかる。
「バセット、装甲車を先頭にして他の歩兵は装甲車を盾に進軍しろ。敵はいないかもしれないが、伏兵がいるかもしれない。敵からの攻撃があれば、すぐに散開して敵をその場にとどめるように、深追いはするな。とどめは第一分隊が行え」
「はっ」
短い言葉とともにバセットが隊員を引き連れて、遅々として進軍を開始した。
その間にアレスは兵士の様子を観察する。
認識票を見れば、斥候隊の所属する第三小隊の若い男だった。
階級章は一等兵。まだ配属して間もなく、カプチェランカに来る時に一緒の船に乗った記憶がある。初めての戦場で緊張して、ベテランの人間にからかわれていた。
裏返せば、腹部に貫通痕。
レーザー銃による傷跡であり、これが唯一の傷だ。
それ以外に傷はなく、傷自体も凍りついていて綺麗なものだった。
死因は凍死かもしれない。
アレスは静かに手を合わせれば、後方から遅れてきた第一分隊に死体袋を用意するように伝えた。狭い車内に入るわけはなく、まだしばらく装甲
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