記憶の彼方
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硬い壁面に身体を預ければ、静かにアレスは瞳を閉じた。
アレスは原作を知っている。
しかし、原作を全て理解しているわけではない。
カプチェランカでの戦闘があったと記憶していても、どのような戦闘であったか、ましてや一戦闘など長い記憶で残ってはいない。
ラインハルトとキルヒアイスが味方の罠にかかっているなど、予想する事さえできなかった。もし、アレスが原作を理解していたのであれば、全速力で進行し、ラインハルトの命を狙ったことであろう。
それが間に合わなかったかもしれないが。
幸か不幸か、そうはならなかった。
+ + +
「間もなくつきます」
短い言葉に、アレスは瞳を開けた。
思いの他熟睡していたことに、唇を拭った。
幸いなことに涎は垂らしておらず、バセットが脇に控えている。
「もっと早く起こしてくれて構わなかったよ」
「気持ちよさそうだったので。敵の反応は一切ありません」
「味方は?」
「それも」
静かに首を振る姿に、予想されていたことであったが、アレスは小さく息を吐いた。動けばバセットが脇に避けて、頭上の扉までの場所を開ける。
一人が顔出して見張りをしている。
モイラという名前だった。
その隣から顔を出せば、温まっていた顔が一瞬に冷える。
唇まで服の中に入れながら、少し変わるとモイラに伝えた。
「いえ。任務なので」
「ああ……じゃあ、頼んだ」
生真面目なバセットの影響か、アレスのいる第二分隊は良いように影響されているようだ。これがカッセル率いる第一分隊であれば、嬉々として装甲車の中に入ったことだろう。
まあ、あちらはあちらで馬鹿が多いから楽しい事は楽しいのだがな。
雪だるまになった男や常にチョコレートバーを手にしている男など、話題性には事欠かない。不真面目なカッセルと生真面目なバセットの両輪が、上手くかみ合ってきたと思う。まだ訓練も不十分だが、今後時間がたてば他の小隊にも負けないと思う。そう思った事に、五月に赴任してから二カ月余りで自分の隊に愛着を持った事に、アレスは唇をあげた。
小隊長というのも悪くはない。
「ま、そう思う事までがカッセルの爺さんの罠の可能性もあるが」
「第一分隊長がどうかされましたか?」
「いや。こちらのことだ」
呟いて、アレスは外に目を走らせた。
白銀の平原は過ぎて、ごつごつとした岩が多くなってきている。
装甲車に入力されていたデータがなければ、ここまで早く走ることはできないだろう。装甲車はほぼ自動で操縦され、細かい操作を運転手が担当している。
切り裂くような風に、アレスは周囲を見渡す。
盲点が多い。それは奇襲を受けやすい光景だ。
バセットは敵の反応がないから起こさなかったと伝え
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