第一章
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第一章
夜明けのブレス
「あっ、あれ」
「うん」
僕は彼女の指差した言葉に頷いた。その指の向こうには。
鴎がいた。街のビルの間に見える。そして海のところを飛んでいた。
その鴎を指差して。彼女は僕に言う。
「何か珍しいわよね」
「そうだね。この時間に鴎なんて」
「鴎は朝早いのかしら」
「いや、そうは聞いていないけれど」
僕は首を少し捻ってこう答えた。
「それはね」
「そうなの。じゃああの鴎は」
「たまたま早起きしただけかな」
こう彼女に言った。
「それでなのかな」
「それでなのね」
「多分ね」
少し考えてから僕は言った。
「そうなんだと思うよ」
「それじゃあ」
僕の今の言葉を聞いてだ。彼女は笑顔になった。そうしてそのうえでこう言ってきたのだった。
「私達と同じね」
「そうだね」
僕は微笑んで彼女のその言葉に頷いた。
「そうなるね」
「何か最近どうしても早く起きるわね」
「休日でもね」
今日は休日だった。僕も彼女も仕事は休みだ。だから遅くまで寝てもよかった。けれど何故か。最近二人共早く起きてしまう。
それで困ってもいる。それでだった。
僕は今度は苦笑いになってだ。彼女に言った。
「あれかな」
「あれって?」
「やっぱりもうすぐだからかな」
僕達の事情に目を向けて話した。
「それでなのかな」
「結婚ね」
「うん、それでかな」
僕は考えながら言った。
「もうすぐだからね。僕達」
「そうかもね。それにしても」
「それにしても?」
「嘘みたい」
彼女は屈託のない笑みになって僕に言ってきた。
「もうすぐ結婚するなんて。私が」
「僕もだよ」
僕も彼女に言った。
「何かこうしてね」
「結婚するのは?」
「そう、嘘みたい」
こう言うのだった。
「これまで。一人だったのに」
「僕もだよ。一人だったのにね」
「二人になるのね」
「そうだよ、二人になるんだよ」
彼女に告げた。
「これからはね」
「二人。一人から」
「不思議な気持ちだよね。一人で生きてきたのが二人になるなんて」
僕はそのことについて考えながらだ。彼女にこう話した。
「それでさ」
「それで?」
「海の方に行かない?」
こう言ったのだった。
「これから」
「海の方に?」
「鴎がいるから」
その鴎のこともだ。話に出した。
「だからね」
「そう、鴎がいるから」
「あの鴎がまだいるかどうかわからないけれど」
それでもだった。僕は言ったのだった。
「行こう。海にね」
「そうね」
彼女は僕の言葉を受けて少し考える顔になってだ。それから答えてくれた。
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