GGO編ーファントム・バレット編ー
63.温かな雫
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髪はセミロング、化粧は薄めで、落ち着いた服装のOLというよりは主婦のイメージ。
そしてその後ろから見知った顔の少年が現れる。先ほど菊岡の説明の場に私を送りつけた少年。その少年の背中には小学生前だと思われる女の子が乗っている。その顔立ちは先ほどの女性によく似ていた。
戸惑いは深まるばかり。なぜなら、親子が誰なのか、シュウがなぜここにいるのか、全くわからない。
女性は、呆然とする私に深々と一礼する。女の子も彼の上で頭を下げる。
親子は店内を横切り私が座っているテーブルの前までやってきた。女性を正面に、その隣にシュウが座り、その膝の上に女の子が座る。カウンターの奥から、マスターが母親の前にカフェオレ、彼の前にコーヒー、女の子の前にミルクのグラスを置いて去る。
これでも誰かわからない。
ーーーいや。
どこかで.......記憶の奥で何かが知らせる。
女性は深々と一礼すると、続けて少し震え声で名乗る。
「はじめまして。朝田.....詩乃さん、ですね?私は、大澤祥恵と申します。この子は瑞恵、四歳です」
名前にも、聞き覚えはない。だが、記憶は何かを告げようとする。
挨拶を返すこともできず、ただ眼を見開き続けていると、母親は大きく息を吸ってから、はっきりとした声で言った。
「.....私が東京に越してきたのは、この子が生まれてからです。それまでは、.......市で働いていました。職場は......」
その言葉で全てを理解した。
「......町三丁目郵便局です」
「あ.........」
微かに声が漏れた。それはまさしくあの郵便局だ。五年前、私が母親とともに訪れ、あれ事件が起きてしまった、何の変哲もない、ただの郵便局。
最初の男性を射殺し、次にカウンターの奥の女性職員二人か、母親のどちらを撃つか迷う素振りを見せた。その時、無我夢中で飛びかかり、拳銃を奪い......引き金を引いた。
そうだ.....この祥恵という母親は、あの時居合わせた女性職員のひとりだ。
つまり、キリトは昨日、明日奈、里香と一緒にわざわざあの郵便局まで行き、すでに職を辞めて東京に引っ越した女性の住所を調べ、連絡し、今日、シュウが迎えにいき、この場所で引き合わせた。
(なぜ?どうしてキリトたちは、ここまでするの?)
「.....ごめんなさい。ごめんなさいね、詩乃さん」
不意に、正面の祥恵さんが、目尻を滲ませながら言った。
「本当に、ごめんなさい。私......もっと早く、あなたにお会いしなきゃいけなかったのに.....あの事件のこと、忘れたくて.....夫が転勤になったのをいいことに、そのまま東京に出てきてしまって.....。あなたが、ずっと苦しんでらしているなんて、少し想像すれば解ったことな
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