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最後の日
最後の日
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[1] 最後
家から徒歩10分、車で3分。
近くに無料駐車場があるため普段は車で移動する距離……。

あえて徒歩で移動した。見慣れた町の景色を懐かしむかのように……

見慣れた空の太陽は高く、9月でもまだ暑いと思い知らされる午前11時。
僕は……駅へと向かう。


服はスーツ。成人式や入社式に着た、自分の持つ物の中での最良品。
細やかに作り込まれたそれは、今日に相応しい。今日の為の服だ。


汗をハンカチで拭きながら駅へとたどり着く……クーラーの利いた駅で切符を買い、電車を待つために暑いホームへと降りる。
毎日通った駅……いつもは電車ギリギリまで室内で待つが今日は10分前に既にホームには居た。
そして普段とは別の電車に軽い足取りで乗り、普段なら座るはずの席を譲り……浮かれる気持ちを抑えるため、目を瞑った。






日常は残酷だった。

努力して入った大学……そして会社。有名な会社で、大学に入る前から名前は知っていた。
その会社に入りたいと思うのは5年前、大学2年の時。
親戚が入社したその会社で、僕は良い話ばかり聞かされた。


やりがいがある。給料は良い。上に上がれる。


僕は親戚に聞き、必要な資格を全て取得した。
その後、その親戚のコネもうまく使ってその会社に入社した。……その親戚は日々やつれていたが、僕は気にも止めなかった。





電車のつり革を持ち、携帯を弄る。今の言葉で言うならスマートフォンか。

機種名は忘れた。衝動買いだったから、別に思い入れも無い。最近まで電話とメール機能以外をほとんど使っていなかった。

目的地の最終確認をする。降りる駅からバスで5分、徒歩20分。
時間は下車時刻から40分以上ある。……それを確認した後にメモ帳機能を開き、長々と思いを書きつづっていった。




固定概念なのか。

入社当初居た同僚は23人。
2年目の時には4人しか居なかった。退社人数19人。内4人はリストラで残りは自分で辞めた。
おかしいと思うだろう。思わなければいけないのだろうが。日々の労働条件も過酷だった。上司からの暴力は日常茶飯事だ。



「辞める??馬鹿だな〜。わざわざ勝ち組から負け組に転落するのかよ!」


残った四人の内の一人が辞める数日前の僕の言葉。夜11時の飲み屋で相談された僕が掛けた言葉だ。
彼は泣きながら相談してきたが一蹴してやった。お前は馬鹿だと。負け犬への転落だと。

彼はその数日後から突然に会社に来なくなる。アパートは解約し、携帯も解約したようでそれから音沙汰は一切なくなった。




目的の駅に着き、電車を降りる。来たことも無い町だが、地図も時間もある。
徒歩で目的地に向かうことに決めた。


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