第百四十七話 死闘のはじまりその十
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それでもだった、彼等は信長の戦となれば苛烈極まる性格のことを踏まえて降ることもどうかというのだった。
「降って許してくれるか」
「織田信長は戦となれば容赦せぬぞ」
「相手が滅びるまで、破るまで戦う男じゃ」
「それで我等が降っても許してくれるか」
「果たして」
「いや、降れば許しておらぬか」
ここで僧侶の一人がこう言った。
「そうしておらぬか」
「むっ、そういえばそうじゃな」
「降って一切歯向かうことがなければな」
「そこで武器を捨てれば許すな」
「それもまた右大臣じゃな」
信長を官位でも呼んで話す。
「ではじゃな」
「ここは降るか」
「死ねば極楽に行けるとはいえ門徒達を無闇に死なせてはならぬ」
「顕如様もそう仰っておられる」
「ではな」
彼等は自分達の命はいいとしていた、念仏を唱えて死ねば極楽に行けるからだ。だが門徒達即ち民達はというのだ。
「ここは降ろう」
「我等の命と引き換えでもな」
「何、極楽に行けると思えば気が楽じゃ」
「それではな」
こう話してだ、そのうえで。
彼等は降ろうと思った、だがここで。
その彼等を囲んでいる織田家の方からだ、こう言ってきたのだった。
「降れ!武器を捨てよ!」
「そうすれば命は取らぬ!」
「後は村に帰り田畑を耕せ!」
「その様にせよ!」
こう門徒達に言うのだった。
「僧達も降れ!」
「織田家は無駄に命まで奪わぬ!」
「わかったら今すぐ武器を捨てよ!」
「よいな、今すぐじゃ!」
「そうせよ!」
こう叫んできたのだ、織田家からのこの言葉を受けて。
僧侶達も決断を下した、その決断はというと。
「ではここは信じるか」
「うむ、あの言葉を信じようぞ」
「このままではどちらにしても皆殺しじゃ」
「それならばここは右大臣に命を預けよう」
「我等五万の命をな」
「そうしようぞ」
こう話してそうしてだった、彼等は降ることにした。こうして本願寺五万の兵のうちのかなりの部分がその場で武器を捨てた、だが。
それは灰色の者達だけだった、何と。
彼等以外の者達、門徒のかなりの部分が突如として駆けだした、その向かう先は。
織田家の本軍、彼等から見て正面にいる信長の軍勢だった。二万程が武器を手に襲い掛かってきたのだ。
その彼等を馬上から見てだ、信長は言った。
「ふむ、従わぬ者もおるな」
「はい、残念ながら」
明智が目を伏せて信長に応えた。
「その様です」
「そうじゃな。ではじゃ」
「ですが殿、多くの者が」
「わかっておる、あの者達には手を出すな」
決してだというのだ、それは。
「よいな」
「はい、それでは」
「あの二万の軍をじゃ」
その彼等をだというのだ。
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