第百四十七話 死闘のはじまりその九
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「見たところあの者達は権六や久助の攻めを受けて傷ついておるがな」
「それでもですか」
「そうじゃ、正面から攻めぬ」
それはしないというのだ。
「囲む」
「そうされますか」
「こちらは十五万、敵は五万といったところじゃな」
「はい」
黒田は信長のその問いにその敵を見ながら答えた。
「それ位ですな」
「だからじゃ」
それでだというのだ。
「三倍の数ならばな」
「囲んで、ですか」
「それで攻める」
こう言ったのである。
「右は牛助が行け」
「はい」
佐久間に命じると彼がすぐに応えた。
「それでは」
「左は五郎左じゃ」
「わかりました」
今度は丹羽が応える。
「そうさせてもらいます」
「権六は今回も騎馬隊を率いて奴等の後ろに回れ」
そうして攻めよというのだ。
「わかったな」
「では奴等を完全に囲みですな」
「そのうえで攻める」
これが信長の今の策だった。
「ではな、しかしじゃ」
「しかし?」
「しかしとは」
「囲んだところで武具を捨てた者は殺さぬと伝えよ」
そう言うというのだ。
「無駄に命は奪わぬとな」
「そうでない者はですね」
「その場合は仕方ない」
例えそれが年寄りや女子供でもだというのだ。
「斬れ」
「わかりました」
「それでは」
「しかし武器を捨てた者は決して殺すな」
今回もだ、そうせよというのだ。
「織田家が相手をするのはあくまで武器を持つ者達だけぞ」
「ですな、ではこれまで通り」
「そうしましょうぞ」
家臣達も応える、こうしてだった。
信長はその五万の兵を瞬く間にその三倍の兵で囲んだ、これまでの奇襲と夜襲で意気消沈していた本願寺の者達の動きは鈍かった。
それでだ、忽ち囲まれてしまったのだった。これには彼等も困り果てた。
「囲まれたぞ」
「しかも数は我等の三倍はおるぞ」
「これでは負けじゃ」
「皆殺しになるわ」
しかも彼等には年寄りや女子供も多い、戦える者はその五万の中でもさらに少なかったのだ。
これでは皆殺しにされるのは火を見るより明らかだった、彼等を率いる僧侶達も困り果ててこう話すのだった。
「どうする、ここは」
「囲まれてはな」
「しかも相手は弱兵織田軍とはいえ十五万ぞ」
「武具もよい」
「これではな」
戦にならないことは彼等も自明の理だった、そして。
彼等はだ、こうも話すのだった。
「どうにもならないぞ」
「降るか?顕如様の仰る様に」
「ここはな」
「そうするか」
彼等も降ろうと思った、だが。
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