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八条学園怪異譚
第四十九話 柳の歌その十五

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「そうですか、だから」
「もんぺですか」
「そうよ、けれど幽霊になったら」
 身体がなくなれば、というのだ。
「この格好でないとね」
「何かこだわりがありますね」
「琴吹さんのこだわりですね」
「これでも身体があった頃から服にはこだわりがあるのよ」
 ファッション、それについてはというのだ。
「だから今はね」
「その幽霊の服ですか」
「昔ながらの」
「外見も若い頃のにしてるのよ」
 八十歳で死んだというが外見は二十代前半の頃のものだ、美人と言っていい。
「あえてね」
「幽霊さんは外見変えられますからね」
「若い頃でも何時でも」
「このことはかなり有り難いわ」
「幽霊さんにしてもですね」
「そうなんですね」
「そうよ、まあとにかくね」
 話をしているうちに農業科の裏門が目の前に来ていた、柳道も終わりである。
「着いたわよ」
「何かお話してるとすぐでしたね」
「柳道って短いんですか」
「結構長いわよ」
 短くはないというのだ、決して。
「ここはね」
「えっ、そうですか?」
「すぐに着いた感じですけれど」
「お話しながらだったから」
 それでだというのだ。
「お話に乗ってると時間はすぐに過ぎるでしょ」
「確かに。それに柳もあまり見てないですし」
「雰囲気とかも」
「でしょ?この柳道って実は夜は特に長く感じるって言われてるのよ」
「ああ、怖いからですね」
「雰囲気ありますからね」
 この辺りの事情は二人にもわかった、夜の人気のない場所で柳というものは日本人の感性に訴えるものがある。
「一人か二人でここを通ると」
「かなり怖いですね」
「時々肝試しの場所にも使われるわよ」
 そうした用途でも知られているというのだ。
「ここはね」
「それだけの場所なんですね」
「琴吹さんもおられますし」
「私もね」
 美奈子自身もだとだ、かなり明るい感じで話す。
「そうした時はちらっと影だけ出して人魂さん達と一緒に視界の端っこに出たりするから」
「それで余計に怖くするんですね」
「恐怖心を煽るんですね」
「ええ、そうよ」
 そうするというのだ、幽霊らしく。
「これがまた楽しいのよ」
「その辺り幽霊さんですね」
「らしいですね」
「幽霊の楽しみは人を驚かせるものよ」
 まさにそれこそがだというのだ。
「だから面白いのよ」
「何も知らない人だと普通に驚きますからね」
「私達にしても」
「知らないということは怖いことよ」
 あらゆることに言えるがこうした怪談話でもだというのだ。
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