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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第44話 「青天の霹靂」
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 第44話 「同盟一の無責任男」

 ホワン・ルイだ。
 捕虜交換は終わったものの、その事でかえって同盟の社会不安は、加速しているような気がしないでもない。
 軍を縮小して兵士を民間に戻すべきだ。と常々主張してきたが、戻ってきた兵士を受け入れるだけのパイは思ったよりも、少なかったのだ。
 長すぎる戦争の所為で、少ない人数でも社会が回ってしまっていた。
 人手は欲しいが、払う金がない。
 消費に回される金にも余裕がない。
 結局、軍以外で受け入れられる職がなかったのだ。
 頭の痛い問題だ。
 最高評議会でも、その事を懸念する声がちらほらと聞こえだしている。
 捕虜交換をしないほうが良かったのではないか、そういう声も上がっている。
 どうしたものか……。
 あの皇太子は帝国で、戻ってきた兵士達をどう扱っているのやら?
 頭を抱えていて欲しいと思うのは、どうかと思うが、同じように悩んでいて欲しい。

 ■最高評議会 ジョアン・レベロ■

「この間の遭遇では、戦闘こそ行われなかったが、今後は警戒の強化が必要だ。そのためには軍の戦力の維持が必要になる」

 ヨブ・トリューニヒトがそう発言した。
 この男、しらっとした顔で、フェザーンから戻ってきたと思ったら、いつの間にか国防委員長の地位に就きやがった。
 面の皮の厚さでは、同盟一だな。
 しかし自分の地位を守る事と、得る事ではやり手だ。
 言葉の端々に棘が含まれている。
 捕虜交換したものの、帰還兵に与えるべき職もなく。軍が人を取りすぎている、民間に戻すべきだと主張してきた私とホワンに対して、釘を刺しているのだ。
 うまく言い返すこともできずに、唇を噛み締めた。
 奴のしたり顔がむかつく。
 ホワンが小声で「そうか、奴はこの事に気づいていたのか」と呟いた。
 しかもあの皇太子は、捕虜交換する前から、帰還兵に与えるべき民間職の拡大を構築してきた事を、フェザーンでの調査で知ったと言いやがった。
 知っていたなら早く言え。

「トリューニヒト君。君の意見も分かるが、それよりも今後の事を話し合おうではないか」
「議長、その通りですな。軍としては、年内にもイゼルローンを攻略すべきだと考えております」

 トリューニヒトの言葉に、部屋の中の空気が凍った。
 誰かが捕虜交換したばかりだぞ、と呟く。
 ホワンも唇を震わせている。
 議長もまた、凍りついたように動かない。

「し、しかし……あの帝国宰相は侵略の意志はないと明言したのだ。それなのに同盟側から、攻勢に出るというのか」
「その通りです。失礼ながらその時の交渉を纏めたものを読ませていただきましたが、ひどいものですな。向こうの思惑通りだ。和平という言葉に騙されている」
「どこが騙されているというの
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