第一章
出会い
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暑い……照りつける太陽がアスファルトを容赦なく熱する。空気が揺らいで見えるのは気のせいじゃないだろう。夏って行ってもまだ7月上旬だぞ? もうこんなの異常気象じゃないか!
こんな時は走って学校に行ってしまうにかぎる。暑いのはもうごめんだし、多少の汗は仕方ないだろう。
――走り出すと風が気持ち良い。体力はたくさんあるので疲れることはない。基本的に何にも好きなことはない俺だが走ることだけは別だった。足を動かすたびに頭が空っぽになっていく。この瞬間はどんなことも忘れることができる。
だからこそ俺は走り続けることはできない。
だって忘れることは停滞すること。
ああ、なんて難しいんだ! 前に進みながらも走り続けることは許されないなんて!
結局みんなそこの加減ができないのだろう。意欲的に前へ進もうとする人ほど実は止まってしまっているのだ。つまりは空回りしてしまうのだ。俺はそうでありたくない。
だから一歩一歩進み続けるんだ。
って何言ってるんだ俺は。これじゃまるでただのイタイ人じゃないか。前を見てしっかり走らないと……ってえ!?
丁度物思いから覚めた瞬間、曲がり角からものすごいスピードで何かが出てきた。
俺は止まろうとするが、いかんせんこちらも猛スピードなのだ。ぶつかることは避けられないと思った――――――が
ひゅん――しゅたっ
その何かは大きく跳んだ。宙返りしたのだ、それも俺の身長を軽々と超えている。そして一連の動作が終わってからようやく宙返りをした人物をしっかりと視認できた。
そこにいたのは一人の少女。長い黒髪を腰まで流していて大和撫子のような人だった。なぜかこの現代日本で着物を着ている。実に動きにくそうな服装なのにもかかわらずあの動きをしたのかと思うと驚きを隠せない。
「すみません。先を急いでいたもので。お互いけがが無くてよかったですね」
「え、あ、ああ」
いきなり言葉をかけられて少したじろいだ。声も相当凛とした感じで外見と予想通りだった。
しっかしそんなことよりも……
「ね、ねえ君――」
「何ですか?」
うーん、すごい運動神経なんですねとか言ってもなあ。
「え〜っとやっぱなんでもないっす」
「あらそう。ではさようなら。さっきも言ったけれど急いでいるのよ。いろいろ挨拶とかあって」
なんの用事だろうか。まあ関係無いからいいか。
「そうっすか。じゃさよなら、気をつけてくださいね」
ありがとう、そう柔らかく微笑んだ彼女に少し意外な感じがした。なんかこう彼女の周りには張り詰めた空気が常駐していた気がするのだ。気のせいかなあ。
「ってあ、名前聞いときゃよかった」
彼女は何か持ってる気がしたのだ、日常をぶっ壊してくれそうな何かを。
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