藍橙の空を見上げて
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はや突っ込む気力さえ起きなかったが。
「ありがとう、月」
礼を言って湯飲みに口をつけ、程よい温かさのお茶を喉に送る。動き回って疲れた身体にゆっくりと沁み渡り、全身の疲労感がじわりと溶け出してくように感じた。
「ふん、味わって飲みなさいよね! 月がわざわざ淹れたお茶なんだから!」
ミニスカートのメイド服の詠は、眼鏡をくいっと持ち上げてきつい言葉を投げつける。その裏には彼女なりの心遣いがある事はこの滞在期間で分かったが。
「確かに月の淹れてくれるお茶はおいしいもんな。詠もありがとう。それと二人ともお疲れ様。慣れない仕事ばかりで疲れたろう? 兵達はお前達の可愛さに癒されていたみたいだけど」
言うと月は顔を真っ赤にし、へうと出会ってからよく聞く口癖を呟きながら頬に手を当てる。
「バ、バッカじゃないの!? 月は確かに可愛いけどなんでボクまで入ってるのよ!?」
照れたのか詠も顔を赤く染めて怒鳴りながら否定してくるが、それを見て月はクスクスと上品に笑った。
「詠ちゃんは可愛いよ?」
そんなわけない! と言い訳し続ける詠にまあまあと優しく諭す月。そんな二人の様子に和みながらお茶の時間を楽しむが、ふと外に人の気配を感じた。
「お疲れ様です秋斗さん」
開け放たれた天幕の入り口からとてとてと雛里がこちらを労いながら入ってきた。
彼女がここに来たのは朝の内に今日の仕事が終わったら行く場所があると呼び出しておいたからだ。いつものように自分の行いを心に刻むためだと彼女は分かってくれているようだった。
「ありがとう。雛里もお疲れさん。二人とも、これを着て少し俺と雛里の散歩に付き合ってくれないか?」
立ち上がって服入れからフード付きの羽織を不思議そうに見つめる二人に渡す。
「どこ行くのよ?」
「洛陽の城壁の上。都を目に焼き付けておくために。俺と雛里は二人でも行くがどうする?」
言うと二人の表情は少しだけ翳った。
彼女達が長い時を過ごした場所。守りきれなかった街。
そのままでもいいがちょっとでもけじめをつけて貰うためにと考えての提案。
「行きます」
短く返事をする月は王の気を纏っていた。ああ、やっぱりこの子は強いな。
「……うん。ボクも行く。きっとしておくべき事だと思うから」
哀しい瞳で語る詠の手を月と雛里がそれぞれ握る。
「一緒ですよ」
優しく紡がれた言葉は詠の沈んで行く心を掬い上げたようで、ふっと息を漏らして穏やかな表情に変わった。
それを見てから羽織を着た二人を連れて四人でゆっくりと目的の場所に向けて歩き出した。
†
斜陽が未だに工事の行われている都を紅く照らし出す。
ここはあの時逃げ出した城壁。兵を見捨て、民を見捨て、たった一人の命を救うために駆け去った場所。
街並みに目を落と
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