夕暮れ、後に霞は晴れ渡りて
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たのか彼は立ち上がり私達の頭をポンポンと軽く抑える。
「頼りにしている、二人とも。大陸で一、二を争う軍師であるお前達とならきっとできるさ」
「はわわ!」
「あわわ……」
口々に未だに直らない子供っぽい口癖を零し、私は恥ずかしさから俯いてしまった。
「……秋斗さんはズルいです」
「何がだ?」
「そういう所です」
「……よく分からんな」
口を尖らせて言う朱里ちゃんの言葉は正しい。無自覚の言動で私達の心をこうまで簡単に振り回すのだから。
私達はそれから他愛のないやり取りと会話を繰り返し、しばらく笑い合っていた。
†
お説教もなんとか回避し、二人に暇を貰って天幕の外に出て洛陽の入り口に向け歩きはじめると曹操と張遼が近づいてくるのが見えた。
なるほど。曹操は史実通りに張遼を得たのか。先の戦いに強敵が増えたな。
俺に気が付いたのか曹操は笑みを深くし、張遼は厳しい面持ちになって後数歩で肉薄、という所まで来てお互い立ち止まる。
「久しぶりね、徐晃。黄巾以来かしら?」
覇気を溢れさせてこちらを見やり一言。前よりもその威圧感はいやというほど増していた。
「お久ぶりです。そうですね、あの城壁以来でしょうか。そちらの方は?」
軽く言葉を紡いで簡単に返答を行い、すっと張遼に視線を向ける。俺を真っ直ぐに射抜く瞳には少しの憎悪と、こちらを推し量ろうとする色。
「あなたは初めて会うものね。我が軍に新しく入った――」
「張遼や。あんたの事はよう知っとるで」
殺気、と呼ぶには少しばかり透き通りすぎている圧力が俺に突き刺さる。
「この子があなたに話があるそうなのよ」
曹操の言葉に思考が回り出し、一つの解が浮かび上がった。
華雄の事か。シ水関で同時に飛び出してきたし、何より月からそれぞれの将同士が親しかったとの話も聞いた。
「華雄の最期、どんなんやった?」
張遼が向ける瞳は真剣そのモノで、自分の頭の中に華雄の鮮烈な最期が思い起こされる。
「最後まで董卓の忠臣であり続け、己が主の誇りを守り抜いたよ。あれほど誇り高き将は他の軍にもいないだろうな」
全ては言えず、自身に向けられた怨嗟の声が甦り、心の底に昏い澱みが溜まっていく。
それに気付かれないように真っ直ぐに張遼の瞳を覗き込み、沈黙している彼女の反応を待った。
「……そか。教えてくれてあんがとさん。大体想像できたわ。きっと『一の臣なり!』とか言うてたんやろ。クク、ほんま最後までバカ貫きよってからに」
苦笑しながらも目を潤ませて語り、顔を空に向けて上げた張遼は少し寂しげに見えた。その隣で曹操は目を瞑って俺達の事を見ることも無く、まるで黙祷しているかのよう。
幾分か静かな沈黙の時間が流れ、一筋の冷たい風が頬を撫でる。
藍を深くし暗くなり始めた空は
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