夕暮れ、後に霞は晴れ渡りて
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一言にズキリと胸が痛んだ。
どうしてこの戦で出会っただけの田豊さんと……それはないはず。確かにあの人は可愛くて、頭が良くて、背は私達と同じくらいなのに胸が大きくて、噛むこともなくて……比べたらダメだ。
「この前は教えて頂けなかった事も話して頂けるんですよね? だって前にご自分で『今は無理なんだ』とおっしゃっていましたし」
お説教時の朱里ちゃんは容赦が無い。流れるように彼の逃げ場を無くしていく。
「さあ、今回は教えて下さい」
「……秋斗さん。私も、知りたいです」
どうして私にすら話してくれなかったのか。沸々と哀しい気持ちが湧いて来る。ああ、ダメだ。私はまた昏い感情を抱いてしまっている。
秋斗さんは一つ大きく息を吐いてちらと私達の顔色を伺い、俯いてから少しの間をおいて語り出した。
「……そうさなぁ。夕、田豊には俺が何をしようとしていたか少し言葉を交わしただけで看破されてな、あいつ曰く『同類』なんだと。真名の交換はシ水関攻略の作戦確認に来た時、外に出たら二人が何故か俺が出てくるのを待っててそのまま話す事になったんだがその時に行った。……多分、あいつは袁紹の王佐たらんとしてるんだろうよ」
話を聞いて彼女の特異な能力に思わず舌を巻く。あんな短時間で、しかも少ししか話をしていないのにこの人の事を見抜いたのか。
心の底から羨ましいと思ってしまう。彼女こそ、この人の隣に立つのに相応しいのかもしれない。そう考えるとチクリと胸に嫉妬の痛みが走る。
ふと思い立って隣の朱里ちゃんを見ると悔しさからか唇を噛んで目に涙を溜めていた。秋斗さんはそれに気付いていない。
「きょ、今日会っていたのは?」
「……朱里? なんで」
「話してください!」
秋斗さんは震える声に驚いて顔を上げ、心配になったのか声を掛けたが、朱里ちゃんが大きな声で遮って先を促した。
「……引き抜きだ。袁家を内部から変えるには有能な将が欲しいんだと。俺が望めば袁家の力で所属軍の移動すら簡単に出来るからと言っていた。……ちゃんと断ったからそんな顔するな二人とも」
続けられた内容に絶句している私達に彼は優しく声を掛ける。
大丈夫。秋斗さんはちゃんと断ってくれた。だから哀しくなんかない。私達を選んでくれたんだから。
言い聞かせても不安が渦巻く心は一向に晴れなかった。
「自浄作用が機能していない諸侯の元に俺一人が行った所でなんら変わる事は無い。どっちみち腐敗した漢を変えるにはあそこじゃ無理だ。黄巾前ならば望みは在ったかもしれないが既に手遅れだな。まあそれに……俺はお前達と平穏な世界を作りたいし」
最後にポツリと紡がれた一言に心が温かくなり、不安が消し飛んだ。彼から直接言って貰えるだけで全然違う。朱里ちゃんの表情も泣きそうなモノから安堵に変わった。
それを見て取っ
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