夕暮れ、後に霞は晴れ渡りて
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叫ぶもそれを表情には出さないように微笑みを刻み付け、いつものように声を掛ける。
「しかし! この左目は!」
「その瞳は私への忠義の証として捧げてくれたモノ。春蘭の身体は春蘭のモノでも、その心と左目は、ずっと私のモノよ」
本心を言いながらも心は歓喜と悲哀にねじ狂う。
「よくやってくれたわね、春蘭。これからも私の剣となって戦って頂戴」
「華琳様……うぅ……うわぁぁぁぁん!」
これからも続く。いついかなる時にもっと大きなモノを失うか分からない。私に出来る事はもっと強大になって世に平穏を創り出し、一人でも多く人を失わせないようにすること。そしてこの子達に相応しい主であり続け、一人全ての先頭に立って皆を導くこと。死が私と愛するモノとを分かつ事があったとしても、その心はずっと共にあり続けられるようにと。
泣き叫ぶ彼女を掻き抱いて背中を撫でつけながら、自身の覚悟を再確認して、しかしどこかに少しだけ……寂しさを感じた。
泣き止んだ春蘭の額に一つ口づけを落とし、真っ赤になった頬を撫でてから立ち上がる。
「此度の戦、ご苦労であった。してその成果をここに示せ」
「はっ。誰かある! 張遼をここに!」
春蘭の一声に近くを警備していた兵が走り出し、しばらくたって張遼を連れてきた。
その堂々たる姿はまさに自身の求めたモノ。不敵な笑みを携えて、悠々とこちらに歩いてくる。立ち止まり見つめ合うこと数瞬、射抜く眼光は鋭く、どこか肉食獣にも似ていた。
「張遼よ。お前の力はこの時に果てるには余りに惜しい。我が願いを果たす為に力を貸せ」
目を細めて彼女の放つ圧力を跳ね返し、自身の言葉を代わりに返す。
耳に届くとすぐに目を丸くした彼女は、次に眉間に皺を寄せて怪訝な表情で返答を行う。
「あんたぁの願いってなんや?」
今にも斬りかかってやろうかというように殺気を込めて言い放たれる。おもしろい、これくらいでなくては意味が無い。
「如何な犠牲を伴おうと、この大陸に悠久の平穏を。それを手に入れる為ならば私は英雄にも悪鬼にもなろう。この大陸に蔓延る腐敗をまるごと打ち砕き、全てを従えて世に平穏をもたらさん。
……私の元にて、今は亡きあなたの主の望んだ世界を作る手助けをしてくれないかしら?」
言い終えると彼女はしばらく難しい顔をして沈黙していたが、急にからからと大きな声で笑いだした。
「クク、あはははは! おもろいなぁ。なんっちゅうか突き抜けとる。全てを知って尚、踏み越え、ぶち壊して作りなおす。せやな、優しいだけやったら世界なんぞ変えられへんか」
最後の言葉は自身の主を思ってか。私も一度でいいから言葉を交わし、語らってみたかった。ただ一人、帝のために魔窟に飛び込む事を決めた英雄と。
張遼はふっと息を漏らした後に私の前に片膝をついて拳を包んだ
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