夕暮れ、後に霞は晴れ渡りて
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らの袁紹軍にぜひ欲しい。それに彼の存在はあの乱世を喰らう化け物と相対するには最重要となる。
「それは無理だな。袁家は信用できない」
言葉と共に凍りつくような瞳に射抜かれ、少したじろいでしまうがどうにか持ちこたえた。彼はそのまま顔を寄せてきて耳元で囁く。
「……曹操が怖いのか?」
たった一言。それだけで自分の心が恐怖に彩られた。身体が離れても自分は硬直したまま動けずにいる。
この人はどこまで読んでいるのか。曹操の名前など常人の思考ではここで出せるわけがないのに。
「交渉事は苦手だし軍の行く先を決めるのは俺じゃないから……個人の答えだけ。お前達が他国に何もしないなら考えておく。まあ、俺一人の存在で何かが変わるとも思えないが」
飄々とした態度で軽く口ずさむように語り、自信なさげな体を装って軽く頭を掻いた。
どの口が言うのか。私の頭の出来を予測しながら曖昧な発言でこちらの思考を縛りに来たくせに。この人がこの先どんな手を打ってくるか全く予想できない。劉備じゃなくこの人が率いていたら……苦しい戦いになっただろう。
けどもう既にこちらの手は打ってある。彼はただの保険。そう出来ればいいなというくらいの事なのだから。
しかし言い聞かせても震える身体は収まらなかった。私の脳髄が警鐘を鳴らす。この人は曹操と同じくらい危険だ、と。
「秋兄は……どこまで読んでるの?」
「さあ、なんのことやら。……まあ本当なら、あんまり無理するなよ」
これ以上は乱世の話はしないという事か。
どの程度なのかぼかして聞いてみるも軽く流され、何故か私の事を心配して頭を撫でる。その手つきはいつかのように優しく、不思議な事に頬が熱くなった。
彼はやっぱり二面性を持っている。いや、作ってしまっているのか。暖かくて優しいのが本来の姿だからそれを無意識に守るために。瞳を見ると先程までの昏さは無く、綺麗で透き通った眼差しを私に送っていた。
「あー! 秋兄、また夕を誑かしてるー! あたしのだって言ったじゃんか!」
明るい声を発しながらもの凄い速さで明がこちらに駆けてきて、間に割って入り私を優しく抱きしめる。
「おお、すまないな。夕が可愛いからつい撫でちまった」
「それには全力で同意するけどさ! ……夕、クズの見張りがいるかもしれないからこれ以上はダメ」
秋兄に言い返してからぼそっとこちらに囁く。確かにあの臆病で疑り深いクズにこの人と親しくしている所を知られると困る。でももうちょっとだけ撫でて貰いたかったな。
自分の本心を我慢してするりと明の腕から抜けて私達を微笑ましげに見ている秋兄の方を向く。
「秋兄、さっきの話は忘れて。時間を取らせてごめん」
「いいよ。こっちこそごめんな」
「……? なんの話?」
「後で話す。じゃあね、秋兄」
「わかった、そん
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