夕暮れ、後に霞は晴れ渡りて
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ですわ! このわたくし、華麗なる袁本初はせっかちで胸の残念な華琳さんと違って威厳に溢れているのですから! 加えて、寛大なわたくしが戦場の後始末くらい引き受けてさしあげますわ!」
続けて高笑いする彼女を見ると、その眼尻には涙の雫が一つ浮かんでいた。
傀儡としての役目は、ずっと彼女の心をじわりじわりと蝕んでいる。呪いにも似た精神的な重圧は、もはや日常に於いても非日常においても彼女を縛り付ける。彼女の涙の意味は自身への戒めと罪悪感の大きさを表していて、同時に自身への悔しさも見て取れる。
彼女に掛かった大きな呪縛が解ける時、それは私達皆が助かる時だ。
それにはまずあれが欲しい。あれなら麗羽を支えられる。政治的な負担も軽く出来るし、何より麗羽に対して全力で自分の心をぶつけてくれる存在だから。
大陸で勇名を馳せている他の誰よりも……幽州の公孫賛が欲しい。
ただ少し問題がある。この洛陽大火の事実を知られたらまずい。彼女は義の人だから悪徳を行う袁家には従わないだろう。それと……もしかしたらあのクズはもう既に幽州内部に毒を仕込んでいるかもしれない。今後の利を考えても幽州が欲しいのは腐りきった袁家の重役であるあいつも同じだから。
なら捕えた上で説得するのが最善か。出来れば趙雲、関靖も欲しいかな。曹操を打倒するには優秀な人材が多めに欲しい。麗羽の本当の姿を知ったら義に厚い彼女たちは手伝ってくれるだろう。
思考に潜りながらも戦場を見る私の視界に赤い髪を揺らしながら戻ってくる明が映った。
身に纏う衣服のそこかしこを赤黒く染めているが、問題ない動作で近づいてくるからきっと大抵は返り血だろう。連れている隊の数を見ると被害は三割弱といった所か。
じっと見つめていると、戦場の狂気とあのクズへの憎悪を混ぜ込んだ瞳、そしていつもの薄ら笑いが返ってきた。
「ただいま戻りました、袁紹様。張コウ隊の被害は三割弱、呂布と陳宮には逃げられましたがそれらの部隊は大きく削れたかと」
忠誠などかけらもないが一応片膝を折って形式ばった報告をすらすらと並べる。
「よろしい。わたくし達はこれから美しく優雅にこの戦場を制圧する事にしましたわ。あなたの隊も追随なさい」
「御意」
無感情な声は何を思ってか、きっと麗羽には分からない。
すっと立ち上がって隊に指示を出し始めた明に近づく。気配を感じ取ったのかゆっくりと振り向き目が合う、するとやっと表情が穏やかなモノになった。
「どうしたのさ?」
「ううん、何でもない」
少し言葉を交わすだけで瞳の色がさらに落ち着く。
大丈夫、私はあなたの事をわかってるから。
「ふふ、夕は可愛いなぁ。……よし! じゃあもうひと踏ん張り行きますかー!」
ふっと微笑んで気合を入れた後、私に背を向け張コウ隊に指示を飛ばす。
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