参ノ巻
陸の魚
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り、瑠螺蔚さんを忘れていく?忘れる?瑠螺蔚さんを?そうして忠宗殿の言うように妻を娶り、生きるのか。僕が?
このままなら、そうせざるを得なくなるのは間違いない。父上は僕か惟伎高義兄上に家督を譲るお考えであるようだ。もし僕が佐々家の跡を継いでしまえば子を残さねばならない。今となっては母上の持ってくる縁談を断る理由ももう無い。そうして、いつか、瑠螺蔚さんを忘れて、幸せ、に・・・。
目の前で由良は泣き伏していた。その背を包むように柔い桃色は降る。
・・・もしも。瑠螺蔚さんを忘れてしまったのなら。
その僕は、もう、僕ではない気がする。
由良は良い。今は辛くとも、きっと恋が由良を生かしてくれる。女は強いものだ。僕のようにいつまでも立ち止まっては居ないだろう。
けれどきっと僕は探す。探してしまう、いつまでも。この暗い客間の中、転げ回った土手の道、野洲の川、互いに花輪を作った草原や、舞い落ちる桜の花、ひとつひとつにさえ。
・・・瑠螺蔚さん。
泣き声が聞こえなくなっていた。見れば、由良は瞳を閉じていた。
その由良を、速穂が抱え上げようとしていた。速穂が下に控えて居たのは気がついていたから、僕は別段驚かなかった。
由良はいつも、この部屋まで辿りついては我に返り泣く。泣き疲れるのか暫くするとふっと気を失う。それを誰かが由良の部屋まで連れ戻す。毎日毎日、その繰り返し。
速穂がふと桜に目を移し、ひとつ、瞬きをして、僕を見た。
僕は悟り、目で客間の中に促す。速穂は由良を抱えて、中に入るとぴたりと戸を閉めた。別段聞かれて困るような話でもないが、どんな報告があるかわからない。忍と話すのに、念をいれるに越したことはない。
「見つかったか」
「・・・いない。奇妙なまでに、どこにも」
そうかと僕は頷く。半ば予想はしていた。
雪と名乗った侍女、あの日尉高義兄上からと言って毒湯を持ってきたあの侍女は、見事に行方を眩ませていた。当然、尉高義兄上からというのも嘘八百であって、佐々家にそんな侍女などどこにも居なかった。ずっと探させては居るが、梨の礫だ。
一体、誰が、何の目的でこんなことを・・・。
そう考えると僕の中にゆっくりとほの暗い炎が燃え立つ。
見つけたら、決して八つ裂きでは済まさない。
その時、誰かの足音が耳を打ち、すっと速穂の腰が浮いた。僕はやり過ごすように目で言い、由良の様子を伺った。起きそうな様子はない。
足音は・・・二人だ。僕らの気配に気づくこ
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