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老公爵
第五章

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「いいです」
「そうですか、では」
「それではとは」
「若し私があなたをこれまでと変わりなく愛し続けるなら」
 その時はというのだ。
「一人でいて宜しいでしょうか」
「その時はですか」
「はい、宜しいでしょうか」
「何故私にそこまで言ってくれるのでしょうか」
 公爵は妻の言葉に嬉しくも思いながらもこう問わずにはいられなかった。
「年老いた私に」
「あなたが私に思ってくださっていることと同じです」
「では」
「はい、いつも申し上げている通りです」
 優しい笑顔でだ、ヴィルヘルミナは夫に答えた。
「私もまた同じですから」
「だからですか」
「はい、ですから」
「そう言って下さるのですね」
「言葉だけではないつもりです」
 妻は夫にこうも言った。
「ですから」
「では私が死んでもですか」
「永遠に。そして」
「そしてとは」
「私が死んだその時は」
 遥かな未来の話だった、ヴィルヘルミナにとっては。
 だがそうなってもだとだ、彼女は夫に告げた。
「あなたの横に休んでいいでしょうか」
「貴女がそう望まれるのなら」
 公爵もまた優しい笑顔で妻に答えた。
「そうされて下さい」
「それでは」
「ですがその時まで、ですか」
「私の夫はあなただけですから」
 想う人もだというのだ。
「ですから」
「では。これからも」
「はい、共に」 
 老いを深めていく公爵とのやり取りだった、そして実際に。
 ヴィルヘルミナは夫と共にい続けた、そうして。
 公爵が遂に老衰で眠りに入ろうとしたその時に、公爵は枕元に座っている妻に顔を向けて静かに言った。
「これまで有り難うございました」
「はい・・・・・・」 
 妻も微笑みで返す、そしてなのだった。
 二人は今は別れた、こうしてヴィルヘルミナは未亡人となった。
 この時彼女はまだ四十を超えたところだ、まだ美貌は健在でありむしろ色香と気品が増しエウロパでも有名な美女となっていた。
 当然言い寄る男はかなり多かった、だがその誰に対しても。
 ヴィルヘルミナは優しく微笑んでだ、こう言うだけだった。
「折角ですが」
「ですが貴女はもう」
「お一人では」
「いえ、私は一人ではありません」
 常にd、あこう言うのだった。
「主人がいますので」
「もう亡くなられたのにですか」
「それでもですか」
「私の伴侶は一人だけです」
 公爵、彼だけだったというのだ。
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