第四章
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「ですから」
「では私と共に」
「過ごさせて下さい」
二人はこう話してだった、そうして。
常に共にいた、それは朝も昼も夜もだった。
何処に行く時もだ、政界を引退した公爵は楽隠居として日々を過ごしていた。家のことも嫡男達に任せる様になっていた。
舞踏会や宴には呼ばれれば出る、公爵は社交的な性格で誘われれば出た、だが。
共にいるヴィルヘルミナは他の誰から誘われてもだった。
夫の傍にいた、そしてある舞踏会の時に美貌の貴族に舞踏に誘われたが静かに微笑んでこう答えたのである。
「いえ、私は主人とだけです」
「公爵殿とだけですか、踊られるのですか」
「そう決めていますので」
それ故にだとだ、気品のある微笑みで答えたのである。
「ですから」
「だからですか」
「そうです、折角のお誘いですが」
断る、こう言うのだった。
「そうさせてもらいます」
「では」
この貴族は残念に思いながら別れた、このことはエウロパ中に知られ思わぬおしどり夫婦と言われる様になった。
その歳の差は変わらない、だが。
二人は変わっていた、公爵は年老いていきながらも若く美しい妻に言うのだ。
「もう私はあなたに子供を授けられませんが」
「それでもですね」
「それと同じだけ素晴らしいものを授けられれば」
それでだというのだ、年老いた公爵はもう子種自体が衰えていた。人工授精という方法がこの時代にあるがそれでもだった。
もう彼の衰えたものではそれも難しかった、それで言うのだった。
「いいです」
「そうですか」
「それが私の今の願いです」
「私もです」
そしてだ、ヴィルヘルミナもここで言った。
「あなたと共にいてです」
「そのうえで、ですか」
「このうえなく素晴らしいものが生み出せば」
それが出来ればというのだ。
「私は満足です」
「それがあなたの願いですね」
「そうです」
夫のもうすっかり年老いているが温かい手を取っての言葉だ。
「そう考えています」
「では、ですね」
「二人で」
公爵と彼女で、だというのだ。
「そうしていきましょう」
「そうですね、ではですね」
「何を生み出せるかはまだわかりませんが」
だがそれでもだというのだ。
「二人生み出しましょう」
「そうですね、二人で」
公爵も妻の手を握った、その若く熱い手を。
公爵は八十を超えやがてエウロパの平均寿命を超えた、すると遂にだった。
身体の衰えが出て来た、病やそういったものはなかったが。
衰えていた、それでだった。
ある日すっかり低くなった声でだ、ヴィルヘルミナに言ったのだった。
「間も無くかも知れません」
「そうですか」
「若し私が死ねば」
その時の話をするのだった、まだ若く美しい妻に。
「
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