第一章
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老公爵
ヴィルヘルミナ=フォン=カーテローゼに縁談が来た、資産家で有名で代々貿易商を営んでいる伯爵家の娘でありこの話自体は適齢になった彼女にとっては当然のことだった。
だが問題はその相手だ、ヴィルヘルミナは兄である伯爵からその話を聞かされて目を丸くさせてこう問い返した。
「それはまことですか?」
「そうだ、まことの話だ」
伯爵は確かな声で妹に答える。
「ヴァルケッセン公爵殿がそなたを后に迎えたいのだ」
「私をですか」
「その通りだ、わかったな」
「私の様な者が何故」
ヴァルケッセンといえばエウロパにおいて長年中央政府の首相を務めた偉大な人物だ、伯爵家の出といっても彼女から見ればまさに雲の上の存在である。
だからだ、公爵にそう言われたと聞いてこう言うのだ。
「公爵が」
「今公爵殿はお一人だな」
「はい」
それはその通りだ、長年連れ添った妻に先立たれている。
「そうです」
「妻を欲しいという、そして先日の舞踏会の時にそなたを見てだ」
「そしてなのですか」
「妻にとな」
そう望んでいるというのだ。
「そう仰っている」
「そうですか、では」
「それでどうする」
兄として妹に問うた。
「このことは」
「はい」
一呼吸置いてからだ、ヴィルヘルミナは兄に答えた。
「私としましては」
「それでいいのか」
「そうです」
その通りだというのだ。
「私でよいのなら」
「それが貴族の娘の務めだからか」
貴族ならば個人同士の恋愛なぞは望めない、家と家の結婚でありしかもそこには幸せもなければないのだ。
家と家だ、その重みがあるからだった。
「断ることは許されないからだな」
「それは」
「いや、今の言葉は忘れてくれ」
兄は家の主として冷静になり返した。
「済まない」
「いいです、ですが」
「結婚してくれるな」
「そうさせてもらいます」
こう兄に答えた。
「喜んで」
「そうか、嫁いでくれるか」
「そうさせてもらいます」
こうしてだ、ヴィルヘルミナはヴァルケッセン公爵、エウロパにおいてとりわけ有名な貴族の一人と結婚することになった、その公爵と会うと。
公爵はまずだ、その年老いた顔でこう彼女に言った。
「有り難う」
「有り難う、ですか」
「私の様な年寄りに嫁いでくれて」
気品があり落ち着いた顔で言ったのである。
「本当に有り難う」
「いえ、それは」
「実は舞踏会で貴女を見てなのだ」
ヴィルヘルミナは幼い頃から美貌で知られている、空の色の切れ長の目の睫毛は長くまゆの形も綺麗だ、そしてブロンドの髪は豊かだ。
脚が長く胸も大きい、幼い頃からよく異性にも同性にも声をかけられている。
その彼女を見てだとだ
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