第二章
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「それじゃあな」
「それと。牧子がね」
「牧子がどうしたんだ?」
「子供出来たらしいから」
「そうか、二人目か」
「そのことも覚えておいてね」
「ああ、わかったよ」
このことは嬉しいことだった、彼にとっても可愛い孫だ。
だが、だ。孫が出来るということは。
「お祝いのものだな」
「買いましょうな」
「今度はどっちだ?」
最初の孫は男の子だった、それで端午の節句の人形等を買ってやった。牧子も夫も市役所の公務員で給料は少ない。それで彼が出したのだ。
「一体」
「まだわからないわ」
「そうか」
「女の子ならね」
陽子は横から夫に言う。
「今度は雛祭り買うわよ」
「二人か?」
「まさか、三人官女と五人囃子もよ」
三段全てだというのだ。
「そんなの当然でしょ」
「そうか」
「いい?女の子ならね」
「女の子ならまだうちにいるがな」
次女と三女だ、次女は大学生で三女は高校生である。二人共幼い時は自分によく懐いていたのに今ではお小遣いのおねだりと友達や学校、特に部活だのサークルだのでの先輩への愚痴ばかりだ。
「そっちの雛祭りがまだあるな」
「あの娘達はあの娘達、それでね」
「孫は孫か」
「わかったわね、女の子ならな」
「ああ、わかったよ」
「その分のお小遣いは減らすから」
川田へのだ、有無を言わせない口調だった。
「いいわね」
「ああ、いいよ」
拒否権はなかった、だからこう答えるしかなかった。
「それじゃあな」
「ええ、そういうことでね」
寝る前に嫌な話だった、しかし聞いて受けるしかなかった。一家の大黒柱としてそうするしかなかったのである。
家に帰ってもそうだった、そして。
仕事でも似たものだった、朝早くから夜遅くまで気の休まる暇もない。
それで夜の電車だ、深夜近くのそれに乗っていると。
隣には桑原がいた、桑原は川田にこう言って来た。
「いや、今日は一緒ですね」
「そうですね、行きも帰りも」
「お互い遅くなりましたな」
「忙しいですね、本当に」
「ええ、全くですよ」
二人はくだびれた顔でそれぞれ話すのだった。
「定年間近の身体には堪えますな」
「実に」
「けれどそれも」
「そうですね」
ここで二人は話題を変えた、その話題はというと。
「それもあと少し」
「ですね、定年すればですね」
「もう働らかなくていい」
「悠々自適の生活ですね」
「その生活になりますね」
こう話す二人だった、もうそれは近いというのだ。
それでだ、二人はその定年してからのことを楽しみにしてそのことを話した。
「あと少しですね」
「あと少しになればもう朝の出勤も夜遅くまで働くこともない」
「楽になりますね」
「悠々自適ですよ」
その生活を待って
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