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北が恋しいと
第五章
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 彼は娘さんに笑顔でこう言った。
「じゃあもう一回頼めるかい?」
「今の歌をですね」
「ああ、そうしてくれるかな」
「はい」
 素朴な笑顔でだ、娘さんは彼の言葉に頷いた。
「それでは」
「じゃあね」 
 娘さんは再びモンゴルの歌を歌うのだった、私達は再びその歌を聴きながら飲み食べた。私はそうしながら同僚と親父さんに言った。
「いいね」
「ああ、そうだな」
「いいでしょ」
 同僚は確かな顔で頷き親父さんはにこりとして話した。
「酒が進むな、食うことも」
「モンゴル料理にはモンゴルの歌ですから」
 本当に二人でそれぞれと話す。
「モンゴルの曲ははじめて聴いたけれどな」
「そうだな、いいな」
 私は同僚の今の言葉に応えた。
「この店は前から気に入ってたけれどな」
「僕ははじめてだけれどな」
「いいな」
「そうだね」
 こう二人で話す、そしてだった。
 親父さんに対してだ、目の前の肉とチーズを見ながらこう言った。
「もう一皿ずつもらえるかな」
「赤ワインも」
「どうぞ、こっちも喜んで飲んで食べてもらえるのなら」
 それならとだ、親父さんも満面の笑顔で応えてくれる。
「願ったり適ったりですから」
「それじゃあ」
「もう一皿ずつ」 
 こうして私達はモンゴルのその歌を聴きながらモンゴル料理を楽しんだ、この日からはじまって。 
 私達は時々この店に入ってモンゴル料理と娘さんの歌を楽しんだ、だが数年経って。
 この日も二人で店に入った、それでモンゴル料理と共に娘さんの歌を楽しもうと思っていた。しかしその店の中には。
 娘さんはいなかった、親父さんと他のお客さんはいるが。私達はその店の中を見回してから今もカウンターにいる親父さんに尋ねた。
「あの、あの娘さんは」
「今日は休みかい?」
「はい、あの娘なら帰りました」
 そうなったとだ、親父さんはカウンターの席に座ろうとしながら尋ねた私達に対して寂しい顔で答えてくれた。
「お国に」
「モンゴルにですか」
「帰ったんだな」
「留学期間が終わりまして」
 それでだというのだ。
「もう帰りました」
「そうですか、それじゃあ」
「もうあの娘はいないんだな」
「そうです、今頃モンゴルで就職しているでしょうか」
 母国でそうしているのではないかというのだ。
「もういないです」
「まあな、留学生だからな」
 だからだとだ、同僚はカウンターに座って出されたおしぼりで手を拭きながら達観した様にして呟く様に言った。
「仕方ないな」
「はい、そうですね」
「それじゃあな」
 同僚はその達観を残したままさらに言った。
「今日も宜しくな」
「はい、何にしますか?」
「そうだな、今日はな」
 同僚はここで私に顔を向けてそれで尋ねてきた。

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