第二章
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「僕はね」
「成程ね、そうなんだね」
「そうなんだ」
「お母さんには似ていないか」
「それがどうかしたのかい?」
「いや、聞いてみただけだよ」
ただそれだけだったというのだ。
「特にないよ」
「本当にかい?」
「今ここで嘘を言っても何にもならないさ、とにかくね」
あらためて言う源吾だった、今度言うことはというと。
「おかしな話ではあるよ」
「君が見てもそうだね」
「うん、君とご両親の間には何かあるのかも知れないよ」
「その具体的な何かが問題だね」
「ただ、話を聞く限りご両親は気味への愛情はあるね」
このことは間違いないというのだ。
「遠慮がちではあってもいつもよくしてくれるんだね」
「子供の頃からね」
それこそ物心ついた頃からだ、両親に悪い感情を抱いたことはない。二人共人間としても尊敬している程だ。
だが、だ。その遠慮している態度について妙なものを感じていて今も言うのだ。
「僕が言うのも何だけれどいい両親だよ」
「そうだろうね、じゃあそれでいいかも知れないよ」
「このままでいいっていうのかな」
「うん、僕としてはね」
これが源吾の言葉だった。
「そのまま放っておいていいこともあるから」
「そうか」
「うん、そうだよ」
「それじゃあ」
こう話してそしてであった、慎太郎は今はどうも釈然としない気持ちのままでいた。だが放っておいたままでいいとは思えなかった。
両親とは違和感を感じないまま共に暮らしていた。彼はその呉服屋の実家から大学に通っているのだ。
そうして大学と家を行き来し東京のあちこちを回って楽しんでいる中でだ、彼は。
ある日浄瑠璃を見た帰りにだ、ふと老人に出会った。その老人もまた浄瑠璃を見た帰りだった。
店を出たところでたまたま横に並んだ、するとだった。
老人は彼のその横顔を見てだ、こう言ったのである。
「あっ、慎二郎さんですか?」
「慎二郎さん?」
「いや、違うか」
その顔を見てだ、そして言ったのである。
「あの人はもう」
「あの、一体」
慎太郎は戸惑う顔で老人に応えた、そしてこう老人に問うたのだ。
「慎二郎さんとは」
「いえ、実は以前の知り合いにです」
「知り合いに?」
「はい、そっくりだったので」
それで声をかけたというのだ。
「もう何十年も前に」
「何十年も前にお会いした方でしたか」
「そうでした私の若い頃です」
「あの、ここでは何ですから」
今二人は店の出口にいる、それで言うのだった。
「喫茶店でも入りますか」
「珈琲ですか」
「僕あれが好きでして」
それを飲みながら話そうというのだ。
「そうしますか?」
「そうですね、それでは」
「はい、じゃあ」
老人の話に妙に興味を感じてそれでだった。
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