第五章
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だから顔は上げたままだ、そのうえで遂にこの言葉を出した。
「もういいでしょう」
「はい、では」
「執行ですね」
「苦しみは与えない様に」
女王はせめてもとだ、こう命じた。
「よい斧を、そして無礼をない様に」
「それは承知しています」
「女王ですから」
「そうです、彼女も女王としての誇りは忘れていません」
そのことはわかっている、だからこその言葉だ。
「ですから」
「礼を尽くしそして苦しまない」
「そうした処刑をですね」
「それを命じます」
守らせる、そうした言葉だった。
「いい斧をよく研いでおきなさい」
「腕のいい首切り役人もですね」
「向かわせますか」
当時首切り用の斧は切れが悪い場合も多かった、そして腕の悪い首切り役人がしくじって処刑される者の苦しみが長引くことが多かったのだ。首を切られ損ねた傷で死にかけで生き続けることは苦痛以外の何者でもない。
だからだ、女王も言うのだ。
「そうです、これは命令です」
女王のせめてもの、というのだ。
「よいですね」
「苦しまずに礼節を重んじ」
「そうして」
「その一部始終は聞きます」
隠しごとも許さないというのだ。
「わかりましたね」
「では」
こうしてだった、遂にメアリー女王の死刑が執行されることになった。スコットランド女王には確かに腕のいい首切り役人が送られいい斧がよく研がれて用意された。
メアリー女王は苦しまなかった、だが。
その報を聞いてだ、女王はこれ以上ないまでに不機嫌な顔になりこう言ったのだった。
「それはどういうことですか」
「メアリー女王のご遺体のことですか」
「そのことですか」
「そうです、どういうことかと言っているのです」
女王は報告する大臣達に対して問う。
「王としての礼を忘れるなと厳命した筈です」
「ご遺体から装飾品を取ったことですか」
「女王のものを奪うとは何事ですか」
「そのことですが」
大臣の一人が恐る恐るだが女王に申し上げる。
「こっれは約得でして」
「首切り役人のですか」
「はい、処刑された者の総商品は役人のものになります」
「そのことは私も知っていますが」
「ですから」
「今回もだというのですね」
「はい」
だからだというのだ。
「彼等にしましても」
「そうですか」
「そうです、そして」
「その後のこともですね」
女王はあえてこのことは言わなかった、女として言うことが憚れたからだ。
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