第五章
[8]前話
「あったんだ」
「私の言った通りよね」
「うん、まさか本当にあるなんて」
「思わなかったのね」
「だって、こんな状況だよ」
まして何処に落としたかすらわからなかった、それでだった。
「まさかね」
「けれど見つかったわ」
「そうだね、奇跡だよ」
「奇跡じゃないわよ、私言ったじゃない」
「神様だからだね」
「そう、絶対にあるから」
そのことがわかっているからだというのだ。
「神様はいつも一緒だから」
「それで見つかって」
「持って行くわよね」
「当たり前じゃない、じゃあ」
「はい」
彼女から十字架を受け取った、けれどチェーンは外れていたので首にかけることは出来なかった。それでだった。
今は財布の中に入れた、そうしてからあらためて彼女に言った。
「じゃあね」
「体育館に戻ってね」
「そこで暫くいよう」
復旧するまではだ、そうするしかなかった。
「神様も一緒だから」
「守ってくれるわ、ずっとね」
「そうだね、神様はいるんだ」
それならこの後の復旧もだ、大丈夫だと思えた。
それで僕は彼女と一緒に避難場所の体育館に戻った、その帰り道は。
警察官の人も消防署員の人も皆忙しく動いていた、復旧は本当に大変そうだった。
けれどそれでもだった、僕は財布の中に入れたその十字架のことを思って彼女に言った。
「何とかなるね」
「ええ、絶対に復興出来るわ」
彼女も僕の言葉の意味を察してこう答えてくれた。
「大変でしょうけれど」
「そうだね、じゃあ僕達も」
「今は我慢してね」
避難先で、だった。
「落ち着いたらね」
「頑張ろうね」
「そうしよう、神様が一緒だから」
それで守ってくれる、このことを話してだった。
僕達は避難場所に帰った。僕も十字架が戻って来てやっとわかった、神様がこの世界にいるということを。
十字架 完
2013・7・2
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