暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第5章 契約
第79話 我が前に……
[13/13]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
した正に、その刹那。

 しかし、世界は無情。炎の邪神を呼び寄せたあのナナシの青年の哄笑がその瞬間に木霊する。
 そう、炎の触手は未だ健在。終に最後の障壁を光の粒子へと変換。その時、俺たち四人と炎の触手の距離は最早数十メートル。
 活性化した精霊に守られ、完全に聖域と化した六芒星の中に存在する俺たち四人に今の所、実害はない。

 しかし、このままの速度で接近されると――――

 このままでは、聖なる槍は初期の目的を完遂する。
 しかし、それと同時に無防備な俺たちも太陽のプロミネンスに等しい熱量に焼かれ――

 時間が歪む。これまでも神の領域に存在していた俺の時間が、更に間延びする。
 最早、アインシュタインを越えた時間(世界)の中に存在する俺の目に、俺たち四人を完全に捉え、そしてすべて自らの霊気と変えようとする炎が迫る。

 しかし!
 そう、しかし!

 炎の触手と俺たちの間に立ち塞がる黒き羽根の少女。その彼女と、触手の間に浮かび上がる防御用の魔術回路。
 その瞬間、自らの発した勢いそのままに弾き飛ばされる炎の触手と、そして、その襲い来る触手の勢いを完全に殺し切る事が出来ず、俺の視界から遙か上空へと吹き飛ばされるオルニス族の少女シャル。

 但し、その彼女が作り出したのは貴重な時間。

 今までとは違う静寂に包まれている俺。神すらも屠る槍に、世界を滅ぼしても……。因果律さえも捻じ曲げられる程の龍気を蓄えながらも、俺の心は平穏そのもので有った。
 まるで森の奥深くに存在する湖畔に佇み、緑を眺め、風の楽を聞くが如き心の在り様。細胞のひとつひとつが洗われて居るような清涼感。
 そして、まるで母の胸に穏やかに抱かれているような安心感に包まれている。

 不安も戸惑いも、今、この瞬間には存在しない。

「神を屠れ、運命の槍(スピア・オブ・ディスティニー)

 禍々しい言葉が紡がれた瞬間、俺の頭上に光が炸裂した。
 それは、眩いまでの曙光。夜明けを告げる光輝。
 渦巻く蒼の輝きが螺旋を描くように複雑に絡み合いながら一直線に進み、炎の触手から溢れる紅の光を呑み込み――――

 蒼い光輝の奔流が、周囲を溶岩化し、更にその口を大きくして居た亀裂へと吸い込まれた瞬間、世界のすべてが光に包まれて行った。

 そう、それは闇も、そして炎もすべて貫く、圧倒的な光。

 そして――――
 そして黒き亀裂に吸い込まれた瞬間、世界を統べる槍は、確かに何かを貫いたのだった。


[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ