第5章 契約
第79話 我が前に……
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【あなたの事を大切な存在だと考えて居る人間に取って、あなたが傷付く事は耐えられない苦痛と成る可能性が有ると言う事を】
タバサの【声】が心の中に響く。
そしてそれは、誰もが同じ事を考えると言う至極当たり前の内容。誰も人が傷付く姿など見たい訳はない。ましてそれが、自らが大切だと思う相手ならば尚更。
但し、俺に取って彼女の言葉は……。
一瞬、答えに窮する俺。その間隙を縫うかのように右側の燃える木々の間から突如現れた炎もたらすモノを、今回は辛うじて回避。
その瞬間に、ほんの少しだけ髪の毛が燃えるような嫌な臭気を鼻が捉えた。
一瞬の空白。まるでその隙間を埋めるように俺の答えを待たず、更に【言葉】を続けるタバサ。
【大丈夫。わたしは何処にも行かない。あなた一人を残して、わたしは何処にも行ったりしない】
普段の彼女からは考えられないような、優しい姉の【声】で……。
更にその内容は、俺の事を……俺の考え方を知り尽くしている内容。
その【言葉】と同時に左手から発せられた呪符が巻き起こす浄化の風が、先ほど鼻先を掠めて行った炎もたらすモノと、そいつが新たに作り出した邪炎を浄化して行く。
そう。俺は別に使命感に燃えて自らが先頭に立って戦って居る訳でもなければ、目立ちたいからでもない。ましてや、死にたがっている訳でも有りません。
俺は一人で残されて仕舞うのが嫌なだけ。いや、そんな浅いレベルの物では有りません。
これは恐怖。一人だけ生きて残らされる事を恐れて居る。……こう表現する方が良い状態。
誰かを看取るぐらいなら……。一人で残されるぐらいなら自分の方が先に死ぬ方がマシ。こう言う非常に後ろ向きの理由から、一番危険な場所に身を置いているに過ぎない。
【何時も一緒に居てくれたあなたを、もう一人にする事はない】
猛烈な業火。世界を包み、大気が熱せられ、精霊の護りを持たない者では五分と生きて行けない紅蓮の炎の世界で響く優しい声。
身体は一瞬の停滞すらなく、炎が創り出した世界を進む俺。間断なく飛来してくる炎を、そしてプラズマ球で有る炎もたらすモノを浄化しながら。
そう。一瞬前に俺が走り抜けた巨木が炎の圧力に抗し切れず倒れ、大地に紅蓮の炎を広げ、
向かう先。森から山に移り変わる少し傾斜の付いた地形からは、絶えず炎の邪神を讃える歌声が響き続ける。
その歌声に呼応するかのように立ち上がる渦巻く炎の柱たち。
そして巻き起こる猛烈な上昇気流。
その風に煽られ、細く上空へと伸びる炎の柱は、まるで螺旋を描きながら高く飛び立って行く東洋の龍の姿に見える。
身体はそのような灼熱の地獄の中を進みながら、心の中には彼女の【声】を聴き続ける。
【了解。これからは少
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