雛が見つけた境界線
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返して!
頭の中で繰り返される言葉は脳髄を昏く侵食していく。
正義と信じて疑わなかった。
自分達は正しい行いをしているのだと誇りにさえ思っていた。
民から向けられた笑顔に、達成感と幸福感を感じていた。
そんなものは……まやかしだった。
自分達が奪った。
自分達が攻めなければ皆は笑顔でいたのだ。
私達が人の笑顔を奪っている事は虎牢関の時に理解したし覚悟も決めた。
しかしそれとこれは話が違う。
私達が洛陽を燃やしたも同然だ。何故止められなかった。
これでは私達は賊と同じではないか。
なんという事をしてしまったのだ。
秋斗殿は……どうして平然としていられるのだ。
最初から疑っていたならば、どうして私達を止めてくれなかったのだ。
あの方は……私達を……
耳が痛くなるほどの静寂が天幕内を包んでいた。
机を囲んで座る人物達の表情は皆、一人を除いてだが暗く、その一人はというとどこか呆れたようにも、怒っているようにも見えた。
ただ雛里ちゃんの表情が暗いのは他の人とは理由が違い、彼を気遣っての事。その証拠にわざわざ彼の隣に座り、服の袖を握っている。少し……羨ましい。
先ほどまで私の心は罪悪感に押しつぶされそうになりながらも頭の中は冷えていた。
盗み聞きするよりも先に聞いていたから取り乱す事も無く、ただ事実として受け入れていた。
雛里ちゃんのあの言葉が大きかった。
私達はたくさん人を死なせているのに、どうして正義なんて甘い事を考えていたんだろう。
最初に一番衝撃を受けたのは愛紗さんだった。
盗み聞きの途中で倒れそうになり、桃香様に支えられていた。涙を零す事こそ無かったが今も唇が慄き、身体が震え、いつ倒れてもおかしくないように見える。
桃香様はというと愛紗さんが倒れかけた事で逆に冷静になっていたかに見えたが、今もその冷静さは変わらない。ただ覚悟を携えた瞳を持っていた。
鈴々ちゃんはここに戻るまでは我慢していたがさっきまで大泣きしていた。自分を責めて。今は少し落ち着いているがそれでも辛そうだった。
「お前らが盗み聞きしていることくらい分かってたよ。面と向かって話させたかったが賈駆が起きているのにも気付いたし、放置したんだ。憎しみを直接聞くのは堪えるから」
沈黙を破ったのはやはり彼だった。その表情からは感情が読み取る事が出来ない。
私達を気遣っての事。あの状況でそこまで考える余裕があったなんて。雛里ちゃんがどうして、というように秋斗さんを見上げる。それを見て彼はゆっくりと答えた。
「俺はな。華雄を殺す時に呪われたんだ。乱世のハザマでのたれ死ね、と。それがあったから賈駆からの怨嗟の声に耐えられた。シ水関での自分を思い出したら……お前達に直接聞かせたくなかった
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