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乱世の確率事象改変
雛が見つけた境界線
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えば牡丹は秋斗殿の為に劉備殿の脳髄を洗い流しましょうとか」
「星! なんてこと言うんですか! 私はこのバカの為ではなく、ただ浅はかで欲深くて傲慢な劉備が気に入らなくてですね――――」
 まだ言い続けようとする牡丹を手で制しておく。一応陣から離れてはいるがあまり余所の主を貶めるものではない。
 それにお前が先にしたんだ。仕返しをするに決まっているだろうに。
「クク、このように雛里の他にも心配するものがいるのですからあまり無茶はしなさるな」
 聞けば劉備殿の代わりに此度の事を自分で献策し行ったとか。
 確かに戦の状況を見て判断し、軍師と主の了承を得て行ったようだがそれでも看過できない事だ。
「まあ、お前の気持ちは分からなくもないです。私も白蓮様の為になるなら多少無理してでも行動したでしょうから。ただ私達なら、白蓮様なら止めてましたよ?」
 白蓮殿なら止めたというのは間違いない。きっと曹操殿でも、孫策殿でも、他の誰でも同じであっただろう。
「もしあなたが劉備の立場なら止めたでしょう?それほど今回のは異常な事なんです。いい加減……私達の家に戻ってきたらどうなんですか」
 そう言う牡丹の顔は心底秋斗殿を心配した顔だった。ここまで素直になるなんて珍しい。
 私もそれには同意する。この方はあそこに居るべきではない。しかし……
「人にはそれぞれ事情があるのだ牡丹。秋斗殿の願いの為にも無理を言ってはダメだ」
「牡丹、ごめんな。俺にはしなくちゃいけない事がある。でもありがとう。星もありがとうな」
「っ! ……私には白蓮様がいる私は白蓮様だけが好きこれは嘘これは違う絶対にそんなんじゃない……」
 秋斗殿が顔を上げて言うと顔を真っ赤にして牡丹は何やらぶつぶつと呟きだした。
 お前も少し惹かれかけているのは知っていたが……完全に堕とされたか。この時機で牡丹の真名を初めて直接呼ぶとはいささか卑怯だと思うが、どうせ無意識なのだろう。
 何故か悔しい気持ちが湧いて来て、少し勇気を出して目の前の鈍感男を抱きしめた。
「星……?」
「殴るよりもこの方があなたには応えるのでは?」
 跳ねる心の臓に気付かれていないだろうか。二つの鼓動を感じる。どうしてだろうか、恥ずかしいのと同時に安心する。
「……そうだな。心配かけてごめん」
 低く、静かな優しい声が耳を打ち、少し身体を離して顔を見ると胸の奥が締め付けられた。私を見つめる黒い瞳に引き込まれそうな感覚に陥る。脈打つ鼓動はうるさいほど頭に響き、高揚した熱が身体を包む。
 自然と、意識せずともお互いの顔が近づき、目を閉じると……すっと身体が離れた。目を開けても目の前には誰もおらず、牡丹の飛び蹴りが地を穿った。
「なっ、いない!?」
「残像だ」
 まだ高鳴る胸を大きく呼吸して抑える。牡丹よ、怨むぞ。

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