暁 〜小説投稿サイト〜
フェアリーテイルの終わり方
五幕 硝子のラビリンス
3幕
[1/2]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「――これでよかったのでしょうか」

 ローエンはつい口にした。ルドガーは否とも諾とも言わず、ただ俯いた。

 フェイは息一つ乱さず、爪を手の平に食い込ませる勢いで拳を握り、ケージを睨みつけている。憎い仇でも見るように。

 否、それは真実、仇を見据える目だった。ずっと明るく接したエルでさえ、不安げにフェイを見上げるほどだ。


 粘ついた沈黙を破ったのは、男の悲鳴だった。

黒匣(ジン)なしで算譜法(ジンテクス)を使った…!? 何なんだお前たちは!」

 ジランドがこちらに銃を向けている。しかし彼の手、いや、体は震えていた。

 1年前に戦ったジランドと同じ人間とは思えない狼狽ぶりだが、ここでの彼はリーゼ・マクシアに漂流する体験をしていないのだ。貴族として、戦う機会もなく過ごした人間なら、これが当然の反応。ローエンたちにとっては当たり前の精霊術も、エレンピオス人からは恐怖の対象だ。

「落ち着いてください、これは精霊術といって――」
「寄るな、化物!」

 ジランドがトリガーを引いた。ローエンは被弾を覚悟した。


 ふわり。視界に飛び込んだ、色のない髪。


 銃声が轟いた。ローエンには一発も当たらなかった。

 代わりに、どうやってか間に現れたフェイが、ローエンを庇って弾を受けたのだ。

 ルドガーが双剣を抜き、アルヴィンが怒号を上げて銃をジランドに向ける。
 ローエンはアルヴィンをすぐさま止めた。

「これ以上は……たとえ分史世界であっても」

 アルヴィンは、意が通じたのか、苦い顔で銃にセーフティをかけた。

 ジランドはルドガーに追い立てられてすでに逃げていた。




「フェイっ!」

 エルの悲鳴。ガラスの柵に凭れて座り込むフェイは、ほんの少しだけ眉根を寄せていた。
 白いブレザーとむき出しの太腿に赤が広がっていく。

「ヘーキ。イタイの、慣れてる。お姉ちゃんは気に、しないで……ローエン、イタイの、ない?」
「ええ。フェイさんが庇ってくださったおかげでピンピンしておりますよ」

 フェイは弱々しくも微笑んだ。その笑みが言葉より雄弁に、ローエンが痛い思いをしなくてよかったと語っていた。

「すぐ手当てします。じっとして」『楽にしててねー』

 エリーゼがフェイの横に膝を突き、治癒術を施し始める。

(このあべこべ感は何でしょう。アスカに対して強大な力を振りかざす横暴さと、我が身を他者の盾にする行き過ぎた献身……いえ、フェイさんの中では平仄が合っているとしたら? アスカの時と私の時の違い……相手が精霊か人間か?)

 全員がフェイの治療を見守る中で、沈黙を破ってGHSが鳴った。着信メロディはルドガーのものだ。

 ルドガー
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ