一人月を背負う
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足によるモノ。徐公明、忠臣華雄を討ち取りし者よ。その刃にて私の命を刈り取り、民の心を救いなさい」
圧倒的な覇気と共に放たれた言葉は俺の心を真っ直ぐに穿った。それによって停止していた思考が回り出した。
この子は幼く見えるがまさしく王。朱里と雛里は気圧されているのか言葉を紡げないようだ。
だが、どうすればいいかは、わかってるよな?
「董卓殿、命をもって責を果たそうとするその覚悟や見事。しかし……あなたを殺すわけにはいかない。だろう? 朱里、雛里」
二人はハッとしてこちらにコクコクと頷く。
「そんな……」
王の気を纏っていた董卓が戸惑い、一人の少女に戻りだす。
「連合総大将の軍から死亡報告が出ている今、あなたを亡きものにしてしまうと私達の軍に嫌疑がかかります」
「匿っていたのではないか、繋がっていたのではないか、その疑心暗鬼により次の標的になるのは私達となります」
だから殺せない。そしてそれは他の軍でも同じ。
「なら総大将の軍に――――」
「それも不可能だ。でっち上げでこの戦を始めた袁家が、洛陽を燃やした袁家が、あなたを引き渡した所で俺達を潰さないという保証が無い。他の軍も引き取らないだろう。それに今更あなたが表舞台に出てきたら、民にも連合全てにも余計な混乱を招くだけだ。だからあなたは殺せないしどこにも行かせられない」
俺の話の途中で朱里の表情が驚愕に変わった。
お前は気付かなかったもんな。いや、見ない振りをした。『諸侯の嫉妬がほとんどの理由』と言ったのはお前だったのに。
董卓は力無く膝を折り何かを呟き始めた。それを今は無視し、朱里に向かい言葉を放つ。
「朱里、甘い考えは捨てろ。俺達は正義なんかじゃない。悪の手助けをしたんだ。お前の頭の中ではもう答えが出ているはずだ」
「わ……私達は……民のために」
頭では分かっているが心が拒絶しているのか、まだ現実を受け入れるには言葉が足りないか。
「こんな可能性もあったんだよ。俺達が間違っている可能性もな。無実の人を力で制圧する覚悟も無く戦いに参加した俺達は……ただの道化だ。踊らされていたんだよ。いいように使われていたんだ」
俺の言葉を聞くと目が虚ろになり、どこかに救いがないかと辺りを見回し、最後に雛里のほうにぎこちなく泣き笑いの顔を向ける。
「ひ、雛里ちゃん……」
朱里の様子を見て雛里は悲痛な顔で俺を見上げた。その眼には涙を溜めていたが、雛里はとっくに覚悟が出来ていたからか朱里のように取り乱していなかった。
「二人で話しておいで。今の朱里を支える事は雛里にしかできない事だよ。ここは任せてくれていい」
「ありがとうございます。朱里ちゃん、行こう」
そう言ってふらつく朱里を支えながら俺の天幕を出て行った。
見送ってから蹲る少女にゆっくりと声を掛ける。
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