一人月を背負う
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もう逃げないと決めた。もう死ぬ覚悟も決めていた。だから最後まで董卓としてやりきらないと。
自分で自分を鼓舞して死の恐怖を追い払い、口を開いた。ごめんね、詠ちゃん。
「……私の名は……董卓です」
私が名乗ると三人は一様に驚愕し、しばらく呆気にとられて沈黙の時が流れた。
†
この子が董卓だと? こんな儚げで優しそうな少女が?
しかもこの子は董卓死亡の報告を聞いていた。なのに何故自分でその名を明かすんだ。
すっと顔を上げてこちらを見据える瞳には覚悟が宿っている。
その眼は嘘をついているモノではないな。死の覚悟を決めた者が持つ眼だ。
「……その言に嘘は無いな?」
「はい」
力強い返答に少し気圧される。ここは戦場ではないのに。
ああ、そうか。これは王の放つ覇気だ。自らの死によってその責を全うしようとしているのか。
「朱里、雛里。この子は嘘を言ってない。それと……死ぬつもりみたいだ」
言葉を放つと二人は瞳に知性を宿し、思考に潜った。
「……秋斗さん。この天幕の周りに人は?」
「徐晃隊に守らせているが少し間隔をあけさせているからそいつらにもここでの話は聞こえやしない。俺の上位命令を聞かない徐晃隊がいるならそいつはもう死んでる」
尋問中の情報断絶は基本だからな。徐晃隊には上位命令という形の、それを破れば極刑だと言ってあるモノを布いた。
俺の言葉を聞いて董卓の表情に少し怯えが滲んだ。
どうやら俺が徐晃だと気付いたか。董卓に会えたら言っておきたい事があったから丁度いい。
そう考えて天幕内の端に立てかけてあった斧を天幕の中心に持ってくる。
斧を置き、片膝をついて董卓に向かうと朱里と雛里は少し不思議そうな顔をしていたが、董卓は斧を見てすぐに真剣な表情になりこちらをじっと見据えていた。
「董卓殿。我が名は徐公明、シ水関にて華雄を討ち取りし者。その最期、勇敢にして誇り高きモノでした。あなたの誇りのために斧を振るい、あなたを守るために戦い、命果てるまであなたへの忠義を貫きました」
華雄の生き様、死に様を伝えたかった。自己満足だが、心にけじめをつけるために言っておきたかった。何よりその忠義の心を届けたかった。そして俺を……憎んで欲しかった。
董卓は寝台から降りて俺の前に膝を付き手を添えて口を開いた。
「そうですか……。伝えてくれてありがとうございます。あなたが届けてくれた華雄さんの想い、確かに受け取りました」
微笑む瞳に哀しみを浮かべ返答を発した董卓と目が合い思考が止まる。
その瞳は優しく、力強く、憎しみなどかけらもなく、慈愛に溢れていた。
董卓はすっと立ち上がり二歩下がって寝台の前で背を伸ばしてこちらを見る。
「民に被害を与えてしまった事は私の責、戦が起こってしまった事は私の力不
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