一人月を背負う
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て椅子に座った。
女の子の一人が立ち上がりとてとてと天幕の端に向かう。
「最初に聞くが……どこか体調で優れないとかは無いか?」
どんな質問が来るんだろうと思っていたら心配そうに私の事を気遣ってくれた。
「……その」
「す、すみましぇん。話す前にまずお茶をどうぞ」
話そうとしたら三角帽子の女の子が戻ってきて湯飲みを差し出してくれる。
少し面喰ったが受け取って口をつけ、喉を潤す。
あ、おいしい。
その香りは静かな森林を思わせた。味は少しほろ苦く、それなのに嫌なモノではない。
気分を落ち着かせてくれて心の中まで暖かくなる。
「……おいしい」
「ふふ、店長さんから貰った緑茶が残っててよかったですね秋斗さん」
金髪の女の子が笑顔で男の人に話しかける。
「そうだな。店長にまた借りが増えちまったが……気に入ってくれたかな?」
「はい、とても」
凄く優しい空間。尋問するのにお茶を出すなんて普通はしないのに。
そういえば最初の質問に答えてなかった。
「少し擦り傷がありますが体調は大丈夫です」
「……女の子の肌にキズをつけられる前に助けられたらよかったんだが……間に合わなくて。ごめんな」
男の人が発した言葉に疑問が起こる。
「その……私はどんな状況だったんでしょうか……?」
「……洛陽の街で民の救援を行っていたら連れ去られそうな君とその子を見つけてな。どうにか連れ去られるのは阻止したが、抱えて逃げ出している奴が君を投げ捨てたんだ。すぐに助けられなくてごめん」
言われて隣の寝台に寝かされている詠ちゃんの方を向く。
頭に布が巻かれているのが痛々しい。
「その子は少し頭を打ったみたいだ。その他に擦り傷は少しあるが大きな外傷は無いよ」
その言葉にほっと胸を撫で下ろす。詠ちゃんの命が無事でよかった。
「危ない所を助けて頂きありがとうございます。私の名は――――」
助けてもらったのに自己紹介をしないのは失礼と思い、名を口にしようとして……そこで言葉が止まる。
私は董卓。この戦で責任をとって死ぬべき人間。でももう死んでいると報告が上がっている。
生きたいと望む私が囁く。偽名を使って逃げ延びたらいい。
死にたいと願う私が怒る。今更逃げようなんて考えるな。
二つの感情と思考が綯い交ぜになってどうしたらいいか分からない。
急に心に大きな罪悪感が押し寄せ、涙が溢れてきた。無意識に自分で自分を抱きしめて蹲る。
「だ、だいじょうぶでしゅか!?」
「む、無理しないでくださいね……」
この子達は優しい。こんな最低な私を気遣ってくれる。
そうだ。この人達は連合の人だろう。なら私を差し出せば名が上がる。
こんな私でも最後に人の役に立てる。民の心も憎悪の対象が明確になったら救われるんだから。
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