火燃ゆる都に月は沈む
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一振りで五人近く斬り飛んだ。
痛む身体に鞭を打ち次々と並み居る兵をなぎ倒し、しばらくして敵兵に恐怖が染み込んだ所で後ろから別の隊が突入してきた。
曹操軍の楽進、それに于禁か。
彼女らは城門内の戦闘に突入するや否や兵に指示を出しこちらに向かい来た。
「徐晃殿、我ら曹操軍は多数を連れて参りました。私がここで抑えますのであなたと于禁は民の救出に向かって頂きたい」
真っ直ぐに俺に向けられる目は怒りに燃えながらも冷静そのものだった。
怪我をしている自分を気遣ったのか、それとも恩を売る為なのか。どちらもだろう。黄巾の時は甘さが残っていたが彼女も曹操に鍛え上げられている将だ。
「恩に着る。では任せた。徐晃隊、東側の救出に向かう! 俺に続け!」
声高らかに返事をする兵達は走り出した俺に付き従う。
一人でも多く民を救う為に。
†
気付かれないように、なるべく見つからないように人目を避けて月の隠れている場所に辿り着いた。
何軒か先の民家には火が燃え移っていた。この隠れ家も火に包まれるのは時間の問題だろう。
火消しを命じた兵達は案の条逃げ出したのか周りには見当たらず、それが哀しくも好都合ではあった。
静かに侵入し扉を開き中の様子を確認すると幽鬼のように青ざめている月が居た。
「月……連合の策で洛陽が火に包まれた。ボク達は逃げないと――――」
「詠ちゃん。私はもう逃げない」
自分の言葉を切って話されたのは否定だった。
ゆっくりとこちらを見る目には覚悟の光が見てとれる。
「な……何を言っているのよ! そんなこと」
「私が悪を背負えば洛陽に住まう民の心の平穏が大きくなる。憎悪の対象が明確になればこの先安心して暮らしていける。だから……逃げないよ」
死の覚悟を、自分の命を投げ打って民の心を助ける覚悟を決めたのか。
責任を放棄することなく受け入れて、自分が生贄になる事を望んでいる。
これではあの時と同じではないか。洛陽に向かったあの時と。
「私ね、詠ちゃん達が私を助ける話をしてるの聞いちゃったんだ。最初は一緒に逃げようと思ったけど、それじゃだめなんだ。最後まで守りきらないと」
聞かれていた事に驚愕し、同時に胸に大きな痛みが走る。
月はボク達の想いを知って尚、その責を果たそうとしている。そこにどれほどの苦悩と絶望があったのかは想像する事もできない。
ああ、これでこそボクの大好きな、そして守りたい月だった。
ボクはこの子を狭い籠に押し込めてしまっていた。この子のためじゃなくこの子に幸せに生きて欲しいという自分の願いのために。
なんて浅ましいんだろう。なんて愚かなんだろう。
でも……それでもやはり生きて欲しい。
臣下として願うではなく、友として、家族として、そして……愛しているか
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