タカオと提督のクリスマス
[1/2]
[1]次 最後
今日はクリスマス。
巨大鎮守府である横須賀でもそれは変わらない。
多くの提督たちが艦娘の為にクリスマスケーキを買い、同時に始まった大型建造で資材を溶かして途方にくれ、霧の艦隊相手の新規作戦に艦隊を出撃させていった。
巨大鎮守府。横須賀。
そこは眠らない戦争の為の場所。
「ここにいらしたんですか?提督」
「ああ」
「お墓……ですか?」
お墓参りの作法をダウンロードしたタカオは静かに手を合わせる。
そのお墓の名は『ハイパー北上様』。
えらく自己主張の激しい名前だなと思ったタカオだが、同時にハイパーと名乗っていた彼女がまぎれもなく提督の艦隊の主力だった事を伺わせる。
その隣に、名も無き小さな墓が置かれているのにタカオは気づく。
「こちらの方は?」
「ああ。
駆逐艦だった。
それは覚えている」
その違和感にタカオは首をかしげた。
どうして、彼女の名前を提督は言わないのだろうと。
その疑問に気づいたのだろう。
提督はその小さな墓に手を合わせて口を開いた。
「まだ新米司令だったころだ。
失った艦娘は戻ってこない。
何度も口をすっぱく言われていた事だったのにな」
冷たいものが降ってきたと思うと雪が舞っていた。
この寒さならば、きっと積もるだろう。
「もう、どこの海域だったかそれすらもあいまいになった。
なんて事はない繰り返される平凡な戦場で彼女は散った。
その時に思ったのは、
『ああ。気分が悪いな』
たったそれだけ。
我ながら最低な奴だなと思ったよ」
吐き捨てた提督はそのまま横のハイパー北上様の墓に手を合わせる。
先に手を合わせた名を言わぬ彼女と同じように。
「秋の作戦の時、ハイパー北上様を沈めてしまった。
失ってゆく資源と時間。我を忘れた強行の果ての失態。
『なんて指揮』とはき捨てた大井の言葉に返す事ができなかった。
その時だ。
彼女の事を思い出したのは?」
提督は再度小さな墓を見つめる。
タカオは思わず尋ねずにはいられなかった。
「彼女を沈めた事をですか?」
「彼女を沈めた事を思い出さなかった事をさ」
しばらく二人とも何も言わなかった。
降る雪と吐く息は白く、遠くから出撃するのだろう艦娘達の声が聞こえる。
「人は忘れる生き物だ。
失敗もする、失態も犯す。
そうやって無数の失敗を繰り返して最適手に近づいてゆく。
そして、教訓の名の下に過去は整理されて、感情を忘れてゆくのさ。
彼女を沈めたことはまだ覚えていた。
だが、彼女の名前、彼女を何処で沈めたのかもう覚えていないんだ。私は」
その時の提督の顔は笑っていた。
だが、それが泣く事が
[1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ