タカオと提督のクリスマス
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できない彼の裏返しである事をタカオはまだ理解できない。
「結局、私は夏の作戦では最後まで行く事はできなかった。
それはこの秋の作戦も同じだ。
だが、秋の作戦は堂々と失敗を誇れるのだよ。
『誰も失う事無く、皆を帰す事ができた』。
私のささやかな勝利さ」
戦術的には敗北を刻まれた彼が掴んだという勝利とて本来ならば負け犬の遠吠えにしかならない。
だから彼はこの横須賀鎮守府において大佐と少将の間を行ったり来たりする『代将』なんて呼ばれる階層に身を置いている。
大和も武蔵も彼は取れなかった。
結果だけが重視される軍人において、それは絶対的な基準。
「提督。
あなたはコンゴウの撃沈にこだわらないのですか?」
「命令だからさ。
努力はするさ。
だが、君達を含めた艦娘全員をこの鎮守府に帰す。
それが私の誓いだ」
そう言って、提督は小さな墓に手を置いた。
そして、タカオを見つめてはっきりと伝える。
「何よりも、君達を沈めると千早君が悲しむ。
君達から聞いた千早君はそんな男だと思うよ。
だから、自分を大事にしろ。
忘れ去られたくなければ、絶対に生き残れ。
忘れかかった馬鹿な提督が得た教訓だが、記憶してくれると嬉しい」
タカオは何も言えなかった。
提督の後悔と決意とその裏返しの優しさをどう整理すればいいのか彼女にはわからない。
「寒くなってきたな。
とりあえず戻ろうか。
よそは知らないが、うちはクリスマス休暇だ。
ケーキとおいしい料理をうちの艦娘たちと食べながら交流しようではないか」
背を向けて提督は鎮守府の方に歩き出す。
それに遅れて三歩ほどタカオは離れて後についてゆく。
「……あなたはそんな人なのですね。
きっと、この子も、ハイパー北上様も、他の艦娘と同じように慕われていると思いますよ」
ぴたりと提督が立ち止まり、タカオと並ぶ。
帽子を深くかぶり顔を隠すように、提督はタカオの顔を見ずにその言葉を告げた。
「メリークリスマス。タカオ」
「……メリークリスマス。提督」
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