第三章:蒼天は黄巾を平らげること その5
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成長したらあれくらい立派になりたいのだ」
「まだまだ先の話だぞ、鈴々。そう時の経過を急くものでは無い。お前は身長を伸ばすよりも先に、もっと学ばねばならぬ事が多いのだからな」
見た目通りの凛とした声で、関羽は年下の少女をたしなめる。首だけで振り返って正したのであるが、その様に隙一つ感じられず、武将としての泰然自若の精神が現れているようであった。たしなめを受けても破願した様子である少女は、恰好の活発さから察するに最前線で戦う将の一人なのだろうか。関羽との仲の良さから見て彼女が張翼徳という事か。もはや何もいうまい。
曹操は威風堂々として彼らを見遣るーーー関羽に対しては熱っぽいものが混じっていたーーーと、北郷に向かって言う。
「噂に違わぬ興味深い面々ね。来てみて正解だったわ。ところで・・・御遣い殿。あなたは自分の軍の噂については御存知かしら」
「ええ、東北の民の間ではかなり広まっているようです。自分で言うのもあれですが・・・白く輝く服を着た、天から参られた若き使者が、龍の鬼才と虎の武力をもって乱世を平定すると・・・」
「民草らしい、脚色甚だしい噂ね。実際の人物を見れば彼らとて気づくでしょうに。たとえ天から来た者であろうがなかろうが、ただの凡庸な人間に相違ないという事にね。漢王朝の宦官よりかはまともな頭を持っているようだけど・・・ふん。ブ男ね」
場が静まり、刃を打ち合わせて火花が散ったように空気が穏やかなものではなくなった。背中に獰猛な剣を突き付けられているような緊張を仁ノ助は覚え、北郷の仲間の顕著な反応に思わず身構えてしまった。劉備は表情を俄かに抑えて剣呑な色を出し、関羽は明らかな苛立ちを露わとしていた。軍師の少女がまたも慌てたように「はわわ」と呟いていたが、その心労には同情する。出来る事なら首を可愛らしく傾げる張飛のように、素っ頓狂としていたいだろうに。面罵された北郷自身は瞠目するだけなのが、なんとも場違いな気がしてならなかった。
これも予想通りの反応だというのだろうか。演出を彩るかのように曹操は螺旋状のツインテールの片方を払うと、蠱惑の瞳で『彼女』を捉えた。
「まぁ、そんなどうでもいい事は後にしましょう。そこの黒髪のあなた・・・関羽だったわね。噂通りの綺麗で、宝石のような黒髪。同じ女性として羨ましいくらい」
「・・・お褒めの言葉、痛み入ります」
「単刀直入に言うわ。あなたの才覚と美は、ただの義勇軍で終わらせるには惜しい。この曹孟徳の配下となりなさい。仕えるべき本当の主に、忠誠を誓いなさい」
『えっ!』
ぎょっとする義勇軍一同。特に関羽の反応は著しく、激発しかけた心を抑えるように顔を憤然と引き攣らせた。それだけで回答が予想されるというもので、仁ノ助は無言で夏候淵と視線を合わせ、夏候惇を挟むように摺り足で移動す
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