第一物語・後半-日来独立編-
第六十章 解放《5》
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奏鳴ちゃん。とても生き生きとしてました」
「そうですねえ。やっと寄り添える者が出来たという感じです」
ゴーグル越しに見る西貿易区域も、自分達がいる町同様に歓喜に満ち溢れているような気がして、自然と笑みが溢れた。
片方の口端を曲げた、怪しげな笑い。
普段は見えることのない笑みを、明子は見逃さずに、
「今、昔の御茶丸の笑い方でしたね。やっぱり気真面目な性格だと無理あると思うんですよ、私」
「そうですか?」
「いいんじゃないかな。別に今なら」
「おほん。お言葉に甘えて」
咳払いを数回し、喉の調子を伺う。
普段は常に声を変えている。昔のように話せるかは自信は無かったが。
「こんな感じか?」
「はい、そんな感じです。何時ものアホ声よりよっぽど格好いいですよ」
「ふん、久し振りこの口調で話すのも、今は悪くはないか」
口調が変わった御茶丸は手荒く掛けていたゴーグルを外し、裸眼で辰ノ大花を見渡した。
目尻が鋭く上がった、柄の悪い少年の印象が強い。
切るのが面倒で後ろに束ねた長い髪が顔に掛かっているので、手で払うように弾いた。
「源水さんよお、どうやらあんたの娘。一人立ち出来そうだ。賭け事はあんたの勝ちだよ、たく。負けたなら仕方ねえ、鬼真面目に生きてやるよ」
「御茶丸の生真面目ってなんか違う気がするんだよねえ」
「ほっとけ。後は天桜長をどうにか出来れば、今日はお祭り騒ぎだ」
言い、御茶丸は新たな映画面を表示。
表示されている送信のボタンを押し、再び笑みを漏らす。
それには、こう打ち込まれていた。
『宇天全学勢に告ぎもおおおす。
今いい感じなので、黄森に仕返したい人はどうぞ! 今がチャンスううう!
何時かやる? 今でショ――――タイムだ!
行け! 行っちまえ!
これ逃したらもう仕返しなんて出来ねえぞ!
武勇伝つくりてえんだったら行かなきゃ損損、ただの損!
では』
これを受け取った学勢達は、別の意味でとてと複雑な心境だった。
自分達の覇王会戦術師らしさは出ているが、あっちがノリノリ過ぎて付いていけない。
覇王会メンバーと明子だけは、彼の本当の姿を知っている。
彼なりの努力が滲み出た、別の意味でいい伝文|《メール》だった。
●
「学長、本当にそれで……」
辰ノ大花の東側にある宇天学勢院高等部の校庭。空を見詰め話していた蓮に向かって、隣にいたタメナシは問い掛けた。
蓮は首を縦に振るだけで、青い空から目を離そうとしなかった。
「私が言わなくても、きっと奏鳴ちゃんはそう言う筈よ。留学という形を取れば、身の安全は保証されるわ」
「しかしながら、皆は納得するでしょうか」
「解ってくれるわ。だって奏鳴ちゃんは一人の女性として、この地を巣立って行くのよ」
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