第一物語・後半-日来独立編-
第六十章 解放《5》
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、微笑むしかなかった。
「俺はここで最後にしたくない。お前はどうだ?」
問われた。
今までならば否定の言葉を述べていただろうが、もうそれは無い。
決めた。
生きることが苦しく、辛く、悲しいものであっても。私は――、
「生きよう」
たった一言。
だがその一言を言うのに、どれだけの時間を犠牲にしたのだろう。
重たく、動く気配の無かった口が動いた。もっと早く口にしていれば、こんなにも苦しまずに済んだのかもしれない。しかし、この一言を言わなくてよかったのかもしれない。
何故ならば、こうして“待ち望んでいた人”に会えたのだから。
目の前に立ち、微笑み掛けてくれる人。
素直じゃない自分を好きでいてくれて、命を省みずに解放場へとやって来た。
ありがとう。
感謝の言葉は口にはせず、今は心の奥底に閉じ込めた。素直になれないから。
●
辰ノ大花は歓喜に似た声に包まれた。
生きよう。
ただその一言を聞き、涙を流す者までいる。
大人達は先代を思い浮かべ、子ども達は周りに合わせ騒ぐ。
後の事態よりも、皆は抑えることの出来無い喜びに浸った。日来の長によって自分達の長は、委伊達家の娘は救われた。
嬉しくて嬉しくて。ただ嬉しくて、訳も分からず騒ぎ始めた。
●
唇を噛み締め、潤んだ瞳を解放場へと向ける実之芽。
自分では救えなかった。なのにセーランと言う者は、この瞬間に彼女を救ってしまった。
何も出来無ず情けなくて、だけど今は奏鳴が救われたという事実の方が実之芽の感情を動かしていた。
近くには天桜覇王会指揮官とその補佐がいるが、二人共今の事態に唖然としていた。
ここまで来て、自分達の行いが無と化そうとしたいるのを飲み込めずにいる。
「ありがと。本当に……ありがとう」
けど相手にするのは後でいい。
溢れ出す涙のせいで視界が悪く、まともに戦える気がしないから。
こんな時ぐらい感傷に浸ってもいいわよね。
強く保ち続けていた心が揺れ、泣き崩れたのはすぐのことだった。
彼女の泣き声は小さく、自分の弱いところを隠しているように見える。覇王会隊長兼指揮官としてのプライドがそうさせる。
仲間は理解していた。だから誰も実之芽を見ないようにした。
「私も、もっと強くならないと……ならなきゃいけない……」
呟くようなその声は、誰かに聞き取られることはなかった。
決心の言葉を吐きながらも、しばらく実之芽が泣き崩れたままなのは変わらなかった。
●
遠くの町から西貿易区域を、遠目に見詰める二人の学勢。
御茶丸と明子は、戦術を練る最中で自身らの長の言葉を映画面|《モニター》越しに聞いた。
「やってくれましたか、日来長」
「日来長と話してる時の
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