ルリム・シャイコースの驚異
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インド北部アーグラ。複数の世界遺産があることでも有名な観光都市である。タージマハル廟、アーグラ要塞などが有名で、一度は行ってみたいと思っていた人も多いはず。
そんな場所は、今や死の世界と化していた。
一面の銀世界。静寂という意味ではアメリカのニューヨークに起きた事象と同様だが、この場所にはニューヨークとは違う光景が広がっていた。
氷の彫像である。
全ての氷像が、苦悶の顔をしている。
逃げようとしていたのだろう、走り出した格好のまま凍りついた人間もいた。
子供に手を伸ばす親の氷像があった。
異変を察して逃げ出そうとした犬の氷像もあった。
中の人間ごと全て凍りついた車も存在している。
人も、動物も、建物も機械も。その全てを等しく殺し尽くした世界。何故ニューヨークと、これほどまでに被害の差があるのか?それはやはり、『慣れ』・・・つまり、経験の差としか言いようがないだろう。
アメリカの人間は、まつろわぬ神が起こす災害が、ただの自然現象ではないことを知っている。敵が神様だとは思っていないが、『よく分からない何かが暴れている』ことを認識している。そして、それを倒してくれる【冥王】も、周囲に甚大な被害を齎してくることを知っている。
だからこそ、近寄らない。ただの自然現象だと楽観視せずに、不可解な事があれば全力で逃げる。だからこそ、人的被害が最小限に抑えられるのだ。これも、【冥王】ジョン・プルートー・スミスが派手好き、演出好きな性格をしているからこそである。他の国では、国や魔術結社が痕跡を全力で隠し通してしまう。良くも悪くも、『隠し通せる範囲』でしか被害が起きていなかったのだ。
それが悪いとは言わない・・・が、今までのそうした努力が、人々から『不可解な事が起きたから逃げる』という思考を葬り去ってしまった。そのせいでこれだけの被害が起きたのだから、皮肉と言わざるを得ないだろう。
インドで氷点下まで下がるというのは、明らかに異常気象だが・・・逆に言えば、『異常気象』で済まされる範囲なのである。たかが『異常気象』で、住んでいた場所を捨てるなど、アメリカ以外に住んでいる人間には出来ない。
気がついた時にはもう遅かった。
クトゥグアが倒されたことを察知したルリム・シャイコースは、もう遠慮はいらないとばかりに本性を現した。
それまでは、ただ寒いというだけだった気温は、急激に下降し、一切合切を凍らせる。異常に気がついた人間も、逃げる間もなく凍りついた。
157万人以上もの人口を持つアーグラは、たった一夜にして、オーロラが輝く死の世界へと変貌してしまったのだった。
「ひぐっ・・・ぐすっ・・・・・・。」
そんな死の世界で、一人泣き続ける小さな影があった。
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