第2部:学祭1日目
第8話『暗転』
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女が無理をしていること、そしてその目に、涙がにじんでいることをすぐに察した。
「唯…ちゃん…」
悲しげな表情の誠を背に、唯はすたすたと歩き出した。
正直、もう何が何だか、自分でもわからなくなっていたのだ。
唖然とする皆、それに梓と七海を無視して、唯は無心に階段を下りて行った。
ボイラーの音が、相変わらず低周波を立てている。
「…くそ…!」
誠も入口へすたすたと歩いていく。
こんなんじゃあ、嫌われるよな。
理性では分かっていても、やはり耐え切れなかった。
「おい伊藤! お前っ!!」
「唯先輩をたぶらかして、どういうつもりっ!?」
七海と梓が誠に手を駆けるが、強引に振りほどき、すたすたと降りていく。
「誠君!」
言葉も誠を追って駆け出し、梓と七海の間をかき分けた。
その一瞬、言葉は七海を見て、かすかに…だが、間違いなく…微笑んだ。
七海が反応する前に、言葉は速足で、かけ下りる。
後にはただ、沈黙。
「ちぇ、なんなんだかあいつ」
「伊藤…」
取り残された律と澪は、冷静につぶやく。
「しかし、まさか西園寺がうちらのファンクラブにねえ…」
「西園寺だけじゃなくて、その友達もだよ。前々から興味を持っていたそうだけど。
案の定榊野でも、唯と伊藤のことが噂になっていたようだった」
「そうか…」澪は腕を組みながら、「となると、それもあって近づいた可能性も高いな…」
「そうかあ? みんなでゲームしてた時は、それなりには楽しんでいたぜ、あいつら。
これがファンクラブ会員の名簿なんだけど」
律は澪に、今まで入った会員の名簿を見せる。
世界、刹那、七海、光。
たった4人。
それも、世界とその友人ばかり。
「まる聞こえなんだけどなあ」
額に指を抑えつつ、七海は呟く…。
ここは先ほどの、1階ロビー。
「……」
梓から送られたメールを、刹那は受け取った。
ムギと2人で、放課後ティータイムファンクラブの受付番をしている。
「どうしたんですか?」
と、ムギ。相変わらず暇なので、あくびを繰り返してばかり。
「中野から、メール」
「梓ちゃんから?」
「はい。世界、伊藤と喧嘩しちゃったらしいです。事実上の絶交。
平沢さんも彼から離れたみたい」
「そうですか」
ムギは当事者ではないので、余り感慨はわかない。
「…とりあえず、これで伊藤さんは、桂さんと付き合うしかないんですよね。ごたごたが解決して、よかっ…!」
ムギの笑顔が消える。
刹那が向けた瞳は、怒りに燃えていた。
「簡単に言わないで!! ずっと世界は伊藤のことが好きだったんだよ!! それをあきらめる苦しみが、貴方に分かるの!?」
「…そりゃあ、唯ちゃんも伊藤さんのことが好き
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