第2部:学祭1日目
第8話『暗転』
[2/16]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
のに、名前を覚えられていたことに少々戸惑いつつ、
「私が桂から聞いた話だが、」澪は探るような視線で、「伊藤はもともと桂の彼氏だったのを、貴方が伊藤と関係を持って、取ったと聞いた。
そんなはずはないんだがもしそうなら、貴方が一番桂を傷つけているし、伊藤を批判する資格なんてないと思うんだ」
「それは…」
事実だ。練習なんてわけのわからない理屈をつけて。
誠は言葉をちらりと見る。
助け船が入ったのは良かったが、知られてはならないことまで知られてしまった。
言葉は澪と同じく、探る目。
「おいおい、実際に伊藤は、西園寺のことを好きって言ったんだとよ」
屋上の入り口から、高い声が響いた。
「田井中さん!?」
「律!?」
世界と澪は、思わずまばたき。
よっと声をかけて、つかつかと律は話に入っていく。
「いやあ、実はね、こいつとそのダチ公がうちのファンクラブに入っちゃってさあ。部長としてはちょっと気になるところなのよ」
よりにもよって、と思いつつ澪は、
「面白半分で入るな、律。ちょっと込み入ってるんだから」
と律をたしなめる。
「とにかく、伊藤だったな。あんたは西園寺にも桂にも、好きって言ったんだろ?」
両手を腰に当てて、律は誠を向いた。
「…それは…」
そうだ。
「だけどさ、律、先に付き合ってたのは桂なん…」
澪が言いかけた時、世界が声を上げた。
「私…みじめじゃない…!!」
声は、震えている。目も赤い。
「私の方が、桂さんよりも好きって言われて…何度もそばにいて、何度も腕を組んで、何度も身を任せた私って…みじめじゃない…!」
「世界…」
「あの時もそうだったじゃない…。誠が平沢さんや桂さんに目移りしてることをとがめると、逆ギレして…」
「あの時は、申し訳ないと思ってるけど…」
胸がきゅっとなるのを、誠は感じた。
「もういい! 何も信じられないよ!! 嫌い! 嫌い! 大嫌い!!
誠も、桂さんも、平沢さんも、何もかも、みんな嫌い!!」
「せか…!」
「大嫌い!!!」
頬を赤くして、目に涙を浮かべて、世界は後ろを向く。
「世界!!」「西園寺!!」
誠と律が止めるのも聞かず、つかつかと歩き出す。
風がやんだ。
律が誠に向けたのは、冷たい視線。怒りをこらえていると、唯にはすぐ分かった。
振り向くと、澪が複雑な表情で、言葉が冷ややかな視線で、世界の後ろ姿を見ていた。
唯達に知られないように、梓と七海は、入口付近に隠れて様子を見ていた。
「どんな悪人面かと思いきや、意外と優男じゃない…」
梓は誠の顔を見て、つぶやいた。
「…桂の奴、澤永の足止めを食らったはずがピンピンしてるな…やはり失敗したのか…」
七海の呟きを聞い
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ