人中と例外
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かれているように見えた。
「なぁ、呂布」
ふっと息を吐くように言葉を流し、互いに目線を合わせる。
無言でこちらを見る目には先ほどとは違い、憎悪以外の感情が見て取れた。
「お前はなんで本気を出さないんだ?」
二人も気付いているようだった。しかし怒りの雰囲気は感じられない。
「……覚えておくため」
ああ、そういう事か。
こいつは少しでも認めた相手を、その全力の武を見ることで心に刻んでいるのか。
憎悪の対象でも敬意を持って。
誰も追いつくことの無い武を持つ彼女ならではのやり方。
彼女はまさしく人中と言えた。
愛紗も鈴々も普通なら手を抜かれているのかと怒っても不思議じゃないが、彼女の言葉足らずな説明の真意を理解し納得していた。
「お前……なんか変。どうして戦ってる?」
俺に向けられたその言葉は普通戦場で放たれるモノではない。俺から何を感じ取ったのか。
「……少しでも守り、繋ぎたいから、かな」
堕ちる人を、生きる命を、散りゆく想いを。
先は言わずとも伝わったのか彼女は一つ頷いて話し出す。
「大丈夫。お前が死んでも恋が連れて行ってあげる」
強い光を宿した瞳とともに紡がれたその言葉は心に染みわたり、俺は少し許された気がした。
「秋斗……殿……?」
「お兄ちゃん……どうして泣いているのだ!?」
ポタリ、と一粒落ちる雫は俺の心から溢れ出た想いのカタチか。おかしいとは思うが、自身を殺そうとしている相手に感謝の念が湧き出てしまった。
「……クク、気にするな二人とも。呂布、感謝する。だが俺の、俺たちの為すべきことの為に、お前を倒すよ」
言い放つと戸惑っていた二人も疑問を抑え付けて今の現状の打開のため気を引き締めた。
「ん、わかった。ここから恋も全力。……行く」
そのまま殺気のみじゃない気があたりを包む。
そしてただの暴力ではない真の武が俺たちに向けられた。
†
十分に袁術軍の被害は出せたと言える。まさか中軍に袁紹の将がいるとは思わなかったが。
部隊を連れていなかったため、交流のある紀霊の所に行こうとしていたのだろう。
「いい具合ね、雪蓮」
「……そうね」
「どうした? いつになく歯切れが悪いじゃないか」
疑問を口に出すがわかっている。このような返事をする時はいつも勘が働いている時だ。
「……そういう事か」
ギリと歯を噛みしめ憎らしげに一つ呟く雪蓮。
「何がだ?」
「一杯喰わされたのよ。きっとこの被害も計算の内だわ」
雪蓮に言われて思考を開始する。
奴等の先陣と中軍の被害は甚大。呂布による混乱と見せかけ乱戦まで持ち込んだ。
確実に袁術軍の戦力は削いでいる。こちらは敵を押し付けて最小限に被害をとどめている。
我らの策は上手くいった。
そこで
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