4部分:第四章
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第四章
「これだよ」
俺はドラムの棒を取り出した。そしてそれをベッドの上に置いた。
「これは」
「御前、あの時言ったよな」
俺はそう語り掛けた。
「最後までドラムだって」
「うん」
「うちのドラムだって言ってたよな。だからな」
持って来た。俺はこいつより凄いドラムは知らない。
「持って行けよ、あっちまでな」
「有り難う」
「だから礼なんていいって言ってるだろ」
俺はあの時と殆ど同じ言葉を言ってやった。
「俺達は七人で一つなんだからな。だからいいんだよ」
「悪いね、本当に」
「どっちにしろ俺達もそっちに行くんだからな」
「そうだよな」
他の奴等も口々に言った。
「だから。待っていてくれよ」
「そのうち行くからな」
「その時またやろうぜ」
そしてまた俺が言った。
「七人でな」
「うん、待ってるよ」
「楽しみにしていてくれよ」
「絶対行くことになるからな」
「それじゃあな」
「そうだね。それじゃあ」
そしてあいつはこう言った。
「さようなら」
それが最後の言葉だった。あいつは一番若いのに一番先に行っちまった。残ったのは俺達六人だけになった。それで俺達はもうそれぞれやる気をなくしちまった。
あれだけ好きだったギターにも触れる気はなかった。ただ毎日煙草をふかして酒を飲むだけだった。金はあってもどうしようもなかった。こんなのがあってもどうすることも出来なかった。
あれだけ眩しくて憧れた夢も。一人いなくなっただけで色あせたものに見えた。
「結局なんだったんだろうな」
朝も夜もなくなっていた。結局酒と煙草ばかりだ。薬はやらなかったがこんなのに頼るつもりはなかった。頼ってもあいつが帰って来るわけじゃないからだ。
こうしてみると結局俺達はここに来た時から何も変わっちゃいない。あの時は十代のガキの心のままでアメリカにやって来た。そして夢を掴んで変わったつもりだった。
けれど何も変わっちゃいなかった。あいつがいなくなってはじめてわかった。
そして思い出した。あの時抱き締めた感触を。夢がなくなったあの娘のことを。思い出した。
「同じなんだな」
何も掴んでいないのは。同じだと思った。
成功したからといって何かを掴めるわけじゃない。掴んでいないかも知れない。本当に今それがわかってきた。酒に浸っていても頭はよく回った。
アメリカに渡ったらどうなるか。夢中で話したのを覚えている。
ギターを指が切れるまで弾いて、そしてここまでやって来て。気付いたのは俺達は結局このアメリカって国の中でほんの一瞬だけいる流星みたいなものだってことだ。長い時間の中で。
けれどそれでもよかった。あいつがいた時は。しかしもういない。いなくなって気付いた。
空虚だった。この街がこんなに空
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