第19話「惚れ薬」
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「……!?」
読唇術でも身につけているのだろうか。雑踏にまぎれて届かないはずの音を、彼女はいとも簡単に理解したらしく、顔を真っ赤にさせた。
その可愛らしい仕草に、今度は体が震えだす。
「長瀬さんが……」
俯き、足を広げ、腕は腰にあてて、全力で息を吸い込み、そして――
「――好きじゃぁぁぁぁぁああーーー」
気付けば、俺は走り出していた。
猛然とこちらへ向かってくるタケルに誰もが目を瞠っていた。
「え、あれ……タケルさん、ですよね?」
「……う、うん。どう見てもタケル先輩」
ネギとアスナが唖然としながらも呟く。
「……どう見ても大和先生だな」
「せ、先生アルね」
あまりのことに手合わせの件が頭から抜け落ちてしまったのか、呆然とマナとクーが頷く。
「……せ……拙者?」
赤い顔で、名を呼ばれた本人が蚊の鳴くような声を漏らした。
だが、それだけだ。誰もその場から動かずに、猛然と走ってくるタケルを見つめている。というよりもショックがでかすぎて動けないといったほうが正しいのかもしれない。
――不自然すぎる。
確かに、タケルと楓に関する噂が一時期あったが、それでもタケルはこんな場で勢いよく告白するような人間ではないはずだ。なんならそういった人間とは正反対にいるような印象さえも受ける。
誰もがそう思い首をかしげていた……ただ一人を除いては。
おそらく、こういった男女間の色ごとに慣れていないせいもあるのだろう。いつもは理性的に物事を分析することが出来る楓が、顔を赤くさせて俯いている。
――もしかしたら満更もでもないのだろうか?
そんな考えが一同に流れた時、唯一天才少年がその頭を閃かせていた。
「も……もしかして……」
一人顔を青くさせるネギに、楓以外の全員が顔を向けた。だが、ネギにしては珍しくその視線には答えず、焦った様子で大声をタケルに向けた。
「た、タケルさーーん!?」
「……なんだ!!」
様子はおかしいが、普通の会話は問題ないらしい。ネギがごくりとつばを飲み込んで、緊張した面持ちで尋ねた。
「……ひ、一口サイズのチョコレート食べませんでしたか!?」
「食べたが、それがどうかしたか!?」
猛然と走りこんでくるタケルがペースを緩めることもなく、答える。
「や、やっぱり……」
ガクッと肩を落とすネギに、その肩に乗っていたカモも気付いたらしい。「ま、まさか」と恐ろしげにその小さい体を震わせた。
「チョコがどうしたっていうのよ?」
尋ねるアスナに、ネギは答えず未だに半放心状態の楓の肩を揺すった。
「だ、駄目です。一旦逃げましょう!!」
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