第19話「惚れ薬」
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嫌な予感に駆られて首をめぐらせるが、その予感は、ありがたいことに外れていた。
「ううん、ちょっとだけまっててもらってるの」
「そうか」
その言葉にホッとして、確かに5Mほど離れた位置でお母さんと目が会った。お互いに軽くお辞儀をして挨拶を済ませる。
「あ、そうだ。はい、これ!」
手に渡されたのは包装紙に包まれた小さな粒。
「……これは?」
「わたしのすきなあめちゃんだよ? このあいだはどうもありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる。
――い、いい子過ぎる。
最早、感動を覚えたくなるほどのいい子っぷりに、タケルが「あ、ああ」と逆にうろたえてしまう。
「マユ〜、そろそろ帰るわよー」
「あ、は〜い」
まだ僅かな時間が経っていないが、なにやら用事でもあるのだろう。そそくさ……というよりもトテトテとお母さんの下へと向かう。
「じゃあおにちゃん、またね」
「また、な」
軽く手を振り合い、そのまま別れる。
「……飴、か」
呟き、包まれた包装を解く。
「……あめ?」
だが、現れたのはどう見ても黒い。どう匂いをかいでも甘い。いわゆるチョコレートだった。
「……間違えたのか?」
一瞬だけ返しに行くべきか考え込むが、もう人ごみに紛れて探し出すのは難しそうだ。
「……ま、いいか」
タケルとしてはチョコはあまり好きではないのだが、折角頂いたお菓子をそこらへんに捨てるのも気が引ける。
そのままひょいと口に放り込んだ。
「よし、帰るか」
地図を眺めながら歩き出す。だが、それがまずかった。
マユと会話したおかげか、自分がそもそも追いかけられている身だということを完全に忘れていたのだ。
路地裏を出た途端に、何となくだが視線を感じた。フと顔を上げて――
「「――あ」」
同時だった。
スターブックスカフェに座る3人の少女達。と、なぜか一緒に談笑しているネギと明日菜。その中の一人、長瀬 楓。
見事に目が合っていた。
「あれ?」
ポケットをまさぐっていたマユが不思議そうに首をかしげた。
「どうしたの?」
お母さんがその顔を覗き込み、尋ねる。
「……さっきのおねえちゃんにもらったチョコレートなくしちゃったぁ」
少女なりに楽しみにしていたのだろう。その目は僅かに涙目になり、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「ほらほら、そんなことで泣かないの」
あくまでも優しく言い聞かせるお母さんに、それでも子供というのはそう簡単に諦めがつくものではない。わがままだからこその子供なのだ。
「……でも」
やはり、ごね
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